しかし、参加者の意見を聞いてみると、決して満足度の高い声ばかりではなかった。団体ツアーでは日本人と会話をする機会が少なく、ホテル以外では日本人と触れ合うことなく帰国する観光客も少なからず存在した。彼らが望んでいたのは日本人の日常ではなかったのか。果たして「もう一度日本を訪れたい」と考えてくれるのだろうか。
悩んだ末に横山さんが思いついたのは、「外国語ができるできないにかかわらず、地域の人と外国人旅行者が接する観光モデルを広めたい」ということだった。人との触れ合いによって日本の日常を体験し、楽しい思い出をつくってもらうことで、日本リピーターになってもらうのが狙いだ。
しかし、単に「日本人がガイドするツアー」では、外国人観光客には響かないだろう。「ゴールデンルート」に匹敵する魅力的な「何か」が、そこには必要だった。
地域の「日常生活体験」が貴重な観光資源に
外国人観光客を受け入れるための整備事業に国や自治体は力を入れ始めている。その多くは、外国語対応の交通看板や観光パンフレット整備などハード整備がメインとなっている。地域にとって、外国人を迎えるためには、確かに最低限の多言語化が必要である。が、しかし、完璧に外国語対応をしても、やはりその地域に魅力がなければ外国人は来訪してはくれないし、来訪したとしてもリピーターを醸成することはできない。
また、地域には、外国人旅行者の消費意欲をアップさせるための仕掛けも不足している。外国人旅行者を地域が迎えるためには、看板やパンフレットなどの多言語化といったハード整備と同時に、「外国人旅行者にとっての魅力づくりや、消費意欲を上げる仕掛けが重要」(横山さん)なのだ。
そこで、本当に必要な「外国人旅行者の受け入れ整備」の概念をもう一度見直してみると、外国人観光客は日本人の日常的な生活の体験を求めているのに、観光地ではその機会が少ないという現実が浮かび上がる。
こうした状況を踏まえて外国人旅行者の満足度向上を図るために行われたのが、平成23年度観光庁「北海道3市における訪日外国人旅行者受入環境整備事業」だ。地域行政と民間事業者が連携して自立的に外国人旅行者の受け入れ環境づくりを行う試みである。札幌市、登別市、函館市の3市で行われた実証調査事業を、じゃらんリサーチセンターが担当した。