クラゲ用の特別な水槽が売られていたが、100リットルの水槽を作るのに50万~100万円もかかる。そんなお金はとてもないので、奥泉氏が自分で図面を引いて水槽を作ることにした。
“奥泉式”水槽のポイントは、水槽の内側の四隅に斜めの板を張り付けたことだ。その板に小さな穴をたくさん開ける。穴から水を噴出させることによって、水槽の中で大きな水流を作ることに成功した。クラゲはその水流に身を任せて、傷つくことなく成長することができた。「この水槽は、100リットルの大きさで製作費がたったの5万円です。市販の水槽の10分の1以下で作ることができました」
その後、改良を重ねてさらに水流をスムーズにし、クラゲが引っかかるところをなくした。こうして様々な種類のクラゲを自分たちで飼育し、常設展示できるようになった。奥泉氏は「オリジナル水槽の完成は、クラゲの展示数を増やす上で大きなブレークスルーになりました」と言う。
バカげた思いつきが活路を開く
クラゲで水族館を立て直す取り組みは、繁殖、飼育へのチャレンジだけにとどまらない。
実は、クラゲを展示してもすぐに入館者が増えたわけではなかった。「日本一になったのに、なぜかお客さんは減りました」(村上館長)。その理由は明らかで、庄内の小さな水族館が日本一のクラゲ展示をしているなんてことを、誰も知らなかったのだ。水族館の存在を世の中の人に広く知ってもらう必要があった。
村上館長は頭をひねり、加茂水族館の知名度を高めるための奇手に打って出た。ここからが加茂水族館の真骨頂である。周囲から見たら「バカか」と思われるような作戦を全力で遂行したのだ。
「私の友人に、遠洋漁業で世界中を回った人がいます。その人がアマゾン川の河口付近で底引き網をやっていたら、魚の代わりに大きなクラゲばかりいっぱいかかったそうです。しょうがないからクラゲを薄切りにして熱湯かけて、酢醤油かけて食ったんだ、そうしたらけっこう食えたんだ、って言うんですよ。『それだ!』と思いました。
私は、スナイロクラゲを捕まえてきてみんなで食おうと言ったんです。だけども、誰も相手にしてくれない。みんな笑って、館長がまたバカ話している、館長、頭おかしいんじゃねえかなんて言う奴もいた」