クラゲの展示を売り物にする水族館がなぜ日本には他にほとんどないのか。それはクラゲの繁殖が難しいからである。加茂水族館が多数の種類のクラゲを繁殖させられたのは、奥泉氏の“マニアック”とも言える探究心があったからに他ならない。

 奥泉氏はこう語る。

 「クラゲが魅力的な生物だというのは元々分かっていたんです。しかし、非常にデリケートで難しい生物だというイメージがあって、加茂水族館ではとても展示できない、ハードルが高いと思っていました。

 でも実際に育ててみたら、『我々でもやれることがいっぱいあるんじゃないの?』ということが分かってきました。小さいクラゲなら地元にいっぱいいるし、採ってくるのにお金もかからない。繁殖の技術を磨いていけば、なんとかなるんじゃないの? と。

 クラゲって、実は分からないことだらけなんです。思ったほど解明されていない生き物なんですよ。ということは、実はトップレベルはかなり低いところにあるということです。トップを目指すのはそんなに難しいことではないということが分かってくるにつれて、クラゲという生き物がどんどん面白くなっていきました」

オリジナル水槽の完成がブレークスルーに

 だが、最大の問題はお金がないということだった。当初は自前の顕微鏡を買うお金がなく、山形大学に頼み込んで顕微鏡を使わせてもらった。また、クラゲの飼育には温度管理が不可欠だが、冷却装置を購入することができなかった。そこで近隣のホテルから不要になった冷蔵庫をもらい受け、サーモスタットを取りつけて繁殖用の恒温箱を作った。

 クラゲ用の水槽は、奥泉氏が自ら設計して作成した。繁殖の成功にいちばん大きく寄与したのは、このオリジナルの水槽の開発だったという。

 「最初は魚用の普通の水槽にいろいろ手を入れてみたんですが、なかなかうまく飼えませんでした。排水口のパイプにクラゲが引っかかったり、仕切りの板の穴で傷ついて死んでしまうんです」(奥泉氏)