だが、村上館長はこの突拍子もない思いつきを実行に移す。こうして2000年9月に加茂水族館で「クラゲを食べる会」が開かれた。生のクラゲをしゃぶしゃぶにして食べるという珍妙な企画に約50人が集まった。参加者たちは「気持ち悪い」「まずい」と言いながら面白がってクラゲを食べた。

 このイベントがマスコミに報じられ、大きな話題となった。庄内にふざけた水族館があるらしい、そこはクラゲの展示が日本一らしい、と客が押し寄せてきた

 言ってみれば、ゲテモノ料理を食べる会である。ふつうの水族館なら世間体を気にして尻込みするだろう。だが、村上館長は「アイデアの出し惜しみはしない。考えられることはすべてやる」と心に決めていた。

 「水族館でクラゲを捕まえてきて食べるなんて、それまで誰も考えたことがありませんでした。完全に頭の外です。でも、だからこそ良かったんだと思います。

 私が『食べる会』をやって成功したあと、関東東北地区の動物園や水族館の園長、館長が集まる会議がありました。40人ぐらいの園長と館長がテーブルを囲んで、『入場者が減って困っている』とか『こういうことをやってみたけどうまくいかない』とか、1人ずつ近況報告をしていくんです。自分の番になったとき、私は『クラゲを食べる会』をやったら大当たりした、入場者が増えたんだという話をしました。そうしたら、みんながどっと笑ったんですよ。その反応を見て、やっぱり『食べる会』は素晴らしいアイデアなんだなと確信しました。

 人の理解を超えたものというのは、みんな笑うんです。理解できないから笑う。バカくせえことというのは本当は素晴らしいんですよ。素晴らしくなければ大当たりなんてしません」

 さらに2006年3月には、クラゲを使った飲食物を提供する「クラゲレストラン」がオープンした。クラゲのコマ切れを混入したクラゲソフトクリーム、エチゼンクラゲ定食、エチゼンクラゲに加えてなぜかキクラゲまで入ったクラゲラーメン・・・。この奇妙奇天烈なレストランをテレビや新聞がこぞって取り上げ、また入館者が増えていった。

 「長い間、人のやっていることを後追いしたり、真面目なことを一生懸命考えてやってきました。でも、当たったことなんて1つもなかった。それよりも、ユーモアを取り入れたバカげたことをやり出したら、みんないい方向に回っていったんです。頭を柔らかくして、なんでもやってみることが、いかに大事かということです」