カンボジアに来て最も驚いたのは、人々が実に素朴で優しく日本人以上に控えめなことだった。共産党政権クメール・ルージュによる凄惨な虐殺が行われたのはわずか30年ほど前。中年以上のカンボジア人たちは実際にその惨劇を体験しているわけである。素朴な彼らのどこに忌まわしい歴史を引き起こす力があったのか、理解するのが難しかった。
中国共産党とクメール・ルージュの相似形
逆に純粋であるがゆえに、凶悪な思想に染まった共産主義者に洗脳され煽られやすかったのかもしれない。
そう言えば、どこかの国で反日暴動が発生、狂ったように物を壊す映像を見たのはついこの間だった。
日本車に乗った人をめった打ちにして同国人なのに意識不明の重態にしたあの狂気。クメール・ルージュによる惨劇跡を歩きながら、何だか相似形を見ているようで背筋が凍る思いがした。
さて、カンボジアではこのところ日本企業の進出が相次いでいるが、あの惨劇で何もかも失った人たちを救おうと努力してきた日本人や企業も多い。
例えば、欧米の有力メディアからミスター・テキスタイルと呼ばれている森本喜久男さん。カンボジアに世界の絹織物の源流を見つけ、途絶えてしまっていた産業を復興させ、世界最高品質の絹織物を作っている。
そればかりか、アンコールワット遺跡のすぐ近くに広大な土地を買い求め、ジャングルを人の手が入った森に変えて、人々が自然と共生しながら豊かに生きていける理想の村まで作ってしまった。
そこでは、染色用の草木が植えられ、様々なフルーツが植えられ、森のあちこちに、この森で絹織物を作る人たちの住居があり、またゲストが来て泊まれる宿泊施設まで作られている。
絹糸を紡ぐ女性、染色をする女性、機を織る女性の近くでは彼女たちの子供たちがきゃっきゃ言いながら走り回っている。彼女たちは子育てをしながら働いているのである。
なかには孫の面倒を見ながら絹糸を紡いでいるお婆ちゃんもいる。男性たちは近くの田んぼや畑で働き、またジャングルを切り拓いて森に変えていく。