グローバルガバナンスとは、「地球統治」と解釈すると誤解を生じるが、世界各国の異なった立場や意見を調整または統制し、地球あるいは世界全体を上手く管理運営していくことである。

グローバルガバナンスと国際公共財

 地球には「世界国家」が存在せず、主権を有する国家が平等な立場で並列的に存在している。国家には主権あるいは主権者が存在するが、国際社会には各国家を超越して統治する主権あるいは主権者が存在しない。

 現在の国際社会は、各国の合意の下、調和できる範囲で協力・協同することを基本として管理運営されており、それ以上のグローバルガバナンスのシステムは存在しない。見通し得る将来においても、主権国家を統治する世界国家の誕生を予測することはできないであろう。

 グローバルガバナンスの最大の担い手である「国際連合」は、その現実認識を前提として設立された。

 「国連憲章」の第1章「目的及び原則」の第1条「国際連合の目的」では、第1項から第3項の3つの目的を挙げ、末項(第4項)で 「(国際連合は、)これらの共通の目的の達成に当って諸国の行動を調和するための中心となること」と謳っている。

 7項目からなる第2条「目的を達成するに当たっての行動原則」の第1項で、「この機構は、そのすべての加盟国の主権平等の原則に基礎をおいている」とし、さらに、第7項では、「この原則は、第7章に基く強制措置の適用を妨げるものではない」との条件を付しているものの、「この憲章のいかなる規定も、本質上いずれかの国の国内管轄権内にある事項に干渉する権限を国際連合に与えるものではなく、また、その事項をこの憲章に基く解決に付託することを加盟国に要求するものでもない」としている。(以上の太字および括弧書きは、筆者注記)

 つまり、国連憲章から引用すれば、現存のグローバルガバナンスとは、「世界各国の主権平等の原則に基礎をおいて、各国の行動を調和すること」にほかならず、ましてや、覇権大国が一方的な統治を行うものではない。

 また、各国の「国内管轄権内にある事項に干渉する権限はなく、その解決を加盟国に要求するものでもない」との基本理念の合意の下に成立している。

 一方、「諸国の行動を調和」するためには、その基準となる規範、合意形成のための機構、管理運営するための制度・システムなどが必要であり、近年、それらを「国際公共財(グローバルコモンズ)」と呼ぶようになった。前述の国連および国連憲章は、その象徴的存在である。

 今日、「国際公共財」と呼ばれているものには、国際連合、IMF(国際通貨基金)、WTO(世界貿易機構)、世界銀行、そして、NATO(北太平洋条約機構)、EU(欧州連合)、ADB(アジア開発銀行)、ASEAN(東南アジア諸国連合)等の地域協力(統合)機構などがある。

 これらの機構、それを支える規範や制度は、第2次世界大戦後、世界的な覇権を握った米国が中心となり、そのイニシアティブによって作られたものが多い。