「『労働ほど尊いものはない。労働が自分自身を向上させる』などと教えても中国人労働者は馬耳東風。私は、中国での生産はこれ以上できないと思っている」――。

 中国に複数の工場を持つ日本人中小企業経営者は、こう打ち明ける。賃金の上昇に加え、労働者の権利意識の高まりから、中国での生産体制の維持がいよいよ難しくなってきたのだ。

 中国では2010年以来、各地で労働争議が多発している。中国人力資源部(日本の厚生労働省に相当)によれば、2010年に中国各地の仲裁機関が受理した労働争議案件は128万件であり、2005年の40万件に比べると、わずか5年で3倍以上となった。これは、2008年1月に労働契約法が施行されて以降、法的手段に訴え自分の権益を守ろうとする労働者が急増したことに起因する。

 だが、労働争議件数の急増や権利意識の高まり以上に問題なのは、「労働意欲の低下」だ。2000年代の不動産バブルを目の当たりにしてきた農村出身の民工たちが追い求めるのは「濡れ手に粟」。もはや「額に汗して」という労働観はない。

 日中関係の悪化も「脱中国」に拍車をかけた。日本の尖閣諸島の国有化に端を発した対日制裁は日に日にエスカレートし、中国の日系企業は安定的な生産活動の維持が困難になっている。9月26日には外相会談が行われたが、両国の主張は平行線をたどり、解決の糸口はなかなか見出せそうもない。

 今や、アジア新興国へのシフトは、日本の経営者にとって大きな課題となっている。そんな中で、日本人経営者が目を向けるのがバングラデシュなのだ。

バングラデシュの賃金は中国の4分の1

 バングラデシュと言えば「ネクスト11」の新興経済国の1つだが、アジアの最貧国のイメージが強く、まだまだ本格的なビジネスの幕開けには至っていない。

 それでもここ数年、日本企業の「バングラ詣で」で賑わうようになってきている。2008年、ファーストリテイリング(ユニクロ)がバングラデシュに進出したことは、日本でも驚きをもって伝えられた。「貧困、災害」一辺倒だったバングラデシュへのイメージを変えたのが、ユニクロの進出だった。