小説家の高樹のぶ子さんが著した『ショパン 奇蹟の一瞬』(PHP研究所)はなんとも贅沢な本である。
高樹さんはスペインのマヨルカ島、フランスのパリ、ノアンなど、ショパンのゆかりの地へ飛び、数々の名曲が誕生した瞬間を小説の形で描写した。
それ以外に、本書にはカラー写真付きの紀行文、ショパンの周囲にいた人々の解説も加わり、さらには当代一流のピアニストが演奏したショパン名曲集のCDも付いている。さながらショパンへの究極の愛情表現みたいな本なのだ。
実は、本書の主人公はショパンだけではない。ショパンに匹敵する、いやそれ以上の強烈な存在感を放つ人物がもう1人登場する。その名はジョルジュ・サンド。フランスの女流作家で、約10年にわたってショパンの恋人だった人物だ。
高樹さんは、ショパンとサンドの関係を、男と女の最も安定した形の1つだと言う。「現代にも通じる」という男女の理想的な関係。それは一体どのようなものなのだろうか。
ショパンの音楽は私自身に語りかけてくる
── ショパンが作品をつくった時の状況を、ショパンになりきって書かれています。
高樹 私は音楽の専門家ではないから音楽の解説はできません。私にできることは創作なんです。ショパンの音楽に一番近づく方法があるとしたら、ショパンになりきって、どのような状況で音楽が作られたのかを創作する以外ないんですね。
創作ではあるけど、でも、ショパンだって私の創作を否定できないと思う。曲をつくった心境は、誰か他人に書いてもらって初めてはっきりした形を現すものだろうと勝手に思ってるんです。
── よくここまでショパンになりきることができますね。
高樹 私の中にショパンが入りこんじゃって、こういう情景を書かせたような気がします。最初はジョルジュ・サンドになりきろうと思ったんだけど、ショパンの音楽を聴いているとショパンの方に入りたくなっちゃった。やはりそれは音楽の力かな。