「テリヤキバーガー」と名付けられたハンバーガーは最初こそ人々に敬遠されたが、先入観のない女子高生たちによって徐々に口コミで広まっていった。テリヤキバーガーの人気はモスバーガーの名を全国に知らしめ、店舗拡大の弾みとなったのである。
このテリヤキバーガー誕生秘話には、驚いた点が2つある。1つは、テリヤキバーガーの原型は日本ではなく、アメリカにあったということ。そして、もう1つは一般の照り焼き料理とは異なり、タレに味噌が入っていることだ。
「テリヤキ」は「照り焼き」にあらず。テリヤキバーガーは、いったんアメリカを経由したものをさらにアレンジしたものであり、伝統的な照り焼き料理とは似て非なるものだったのである。つまり、ここに“突然変異”した飛躍のワケが隠されていたのだ。
他のチェーンがモスバーガーに追随してテリヤキバーガーを発売するのは、だいぶあとになってからだ。1986年にロッテリアが期間限定商品として「てりやきバーガー」を発売。1989年には、マクドナルドがこれまた期間限定商品として「てりやきマックバーガー」を発売したが、あまりの人気ぶりに急遽定番メニューに加えることになった。
こうしてテリヤキバーガーは、いまや日本のチェーンではなくてはならないメニューとなったのである。
イギリス生まれのサンドウィッチ、ドイツ生まれのハンバーグがアメリカで合体し、ハンバーガーが誕生する。時を経て、今度は照り焼きのタレがアメリカでハンバーガーと出合う。それが逆輸入で日本に伝わり、さらなるアレンジを加えられて元祖和風バーガーとなる――なんとも複雑だ。
いま当たり前のように、この日本に存在しているテリヤキバーガー。それは、長い時を超え、何度も海を行き来した末にようやく誕生した食べものなのであった。