リーマン・ショックから1年8カ月を経た。世界の経済が回復過程に入っているとはいえ、その中でロシア経済の消費や設備投資はまだ伸びが鈍く、全体の回復は80ドル台に戻してきた原油価格に支えられる輸出頼みの感がある。
ガス外交で大きな成果を挙げたロシア首脳
財政規律の下で政府として打てる手は打ったのだから、後はもう自然に景気が回復するのを待つしかない、その間に将来の国と経済のあるべき姿を構築する長期作業(近代化=イノベーション)に手をつけ、「資源依存」の経済というあまり名誉ではない評価を消すようにしよう。それが今のロシア政府の立ち位置のようだ。
だが、そうは言っても、されど資源、ではある。今はこれが国を支えていることは誰も否定できない。そして、5月の祝祭日(メーデーと対独戦勝記念)を前にした4月に、ロシアの首脳は対外面で精力的に動き回り、ガスの分野で大きな成果を挙げた。
その最大のものは、何と言ってもガスの価格とセヴァストーポリ海軍基地租借期間延長を組み合わせたウクライナとの合意だろう。
2月に就任したビクトル・ヤヌーコヴィッチ新大統領は、一刻も早く国の経済を立て直さねばならない。そのためには、いったんは中断していた国際通貨基金(IMF)からの資金供与を再開させ、さらにそれを増額してもらわねばならない。財政と国際収支の双方の赤字を埋めるためである。
政権維持のため、ガス輸入価格の引き下げは不可欠だった
IMFは融資の条件の1つとして、ウクライナ国内のガス価格の引き上げを要求していた。ポピュリズムに過ぎる家庭用へのあまりの低価格は看過できない、というわけだ。だが、今のウクライナ経済でガスの価格を引き上げてしまったら、国民の反発を買うことは目に見えている。
政権発足後間もない時期だから、野に下った政敵が息を吹き返し、また何が起こるか分からない。それに、ヤヌーコヴィッチ大統領を支持した東部の産業資本家たちも黙ってはいまい。
ガスの国内価格に手をつけず、かつIMFのOKを貰うには、ロシアからのガスの輸入価格を引き下げて国内価格との差を縮めるしかない。買い値が安いんですから、売り値も安くなって当然ですと。
ロシアが今の価格を市場が決めていると主張する限り、その値引きは、もしそれが行われるなら経済的にではなく、政治的に行われねばならない。経済原則を度外視するに足りるだけの政治的な理由が必要である。