2009年8月に『日本「半導体」敗戦』(光文社)を出版したところ、極めて大きな反響があった。この本で記した日本半導体産業が凋落した原因と、そこから得られる教訓、復活への処方箋などを、より多くの人に知っていただきたい。そこで本コラムでは、『日本「半導体」敗戦』の内容を改めて整理すると同時に、出版時に盛り込めなかった話、最新情報などを加えて皆さんにお伝えする。(前回はこちら)
病気を治療するために必要なことは何か? それは、第1に正しい診断、第2に病気であることの自覚、第3に(これが最も重要だが)治療しようという決意である。
例えば、あなたが、咳が止まらないとする。風邪かもしれない。今はやりの新型インフルエンザかもしれない。肺炎、または結核の可能性もある。ここで、適当な風邪薬を飲んだりして誤魔化していると、治るものも治らない(場合がある)。やはり、治療するためには、咳が出る原因を突き止めた上で、正しい治療をすることが必要だ。
そこで、あなたは病院に行き医師の診察を受ける。その結果、肺のレントゲン撮影と痰の検査により、結核の可能性が高いことが分かった。咳の原因は結核だったのだ。
あなたは「自分は結核だ」と自覚し、「治さなくてはならない」と決意する。そして、医師の勧めに従い入院し、適切な処方を受ける。このようにして、病気が治るのである。
日本半導体産業は病気にかかっている
筆者は、16年半にわたる半導体技術者の経験と、4年半におよぶ社会科学研究の結果から、「日本半導体は、過剰技術で過剰品質を作る病気にかかっている」と診断した。
しかし、日本半導体には、そのような病気にかかっているという自覚がない。治療しようという決意もない。つまり、日本半導体は、病気にかかっている現状を直視せず、放置しているのである。
2000年にDRAMから撤退し、2008年度に全てのメーカーが巨額の赤字を計上したのは、病気を放置し続けてきた当然の帰結と言えるだろう。
今回は、筆者が「日本半導体は、過剰技術で過剰品質を作る病気にかかっている」と診断した根拠を、具体的に示す。病気を適切に治療するためには、まず、病気にかかっていることを、自覚する必要があるからだ。