今回は、前回紹介した「内観」について、インタビュー形式でさらに深く見ていくことにする。取材したのは、白金台内観研修所の本山陽一所長だ。

――内観法と内観療法はどう違うのですか?

本山 内観法は、吉本伊信先生が開発された、自らを客観的に見る技法で、元々、企業研修や教育関係や精神修養的な目的でも使われていました。応用範囲が非常に広いです。それが、精神的な病の治療にも応用できるということで、用いられるようになったのが内観療法です。

 やること自体は同じなのですが、内観療法の場合は、心療内科や精神科の治療など、ほかの治療法を一緒に組み合わせて行うケースが多いです。

客観的にものを見る練習

本山 陽一氏
白金台内観研修所所長。1951年、高知県生まれ。吉本伊信氏に師事し、84年埼玉県名栗村に「名栗の里内観研修所」を開設。99年現在の白金台内観研修所に移転。これまで5000人を超える内観面接を行う。現在、日本内観学会副理事長、日本内観研修所協会副会長

――内観では、関係が深かった人との事実関係を、時系列的に思い出す作業をひたすら続けるわけですが、「していただいたこと」「して返したこと」「迷惑かけたこと」の3つのキーワードが持つ意味は、何なのでしょうか。

本山 自分のこれまでの人間関係を、3つの視点で見直すということです。これは、客観的にものを見る練習です。私たちは、物事を客観的に見ているようでも、実は非常に主観的に見ています。

 同じ話を同じ空間で同時に聞いたとしても、5人いれば5通りの感じ方やとらえ方があります。

――それは、なぜでしょうか。

本山 育った家庭、環境、時代、教育など、一人ひとりの歴史が異なるからです。例えば、愛の素晴らしさを訴える話でも、仲の良い家庭で育った人と、喧嘩の絶えなかった家庭で育った人では、そのとらえ方は異なります。つまり、我々は、自分自身の過去の記憶を土台に物事を判断しているわけです。

――客観的視点がひどく欠如すると、どうなるのでしょうか。

本山 「認知の歪み」が生じ、それがやがて社会的な不適合を招くことがあります。例えば、引きこもりや家庭内暴力など、様々な社会的不適合が問題になっていますが、そこでは、その人の価値観と世界の価値観が大きく乖離していることがあります。

 拒食症を例に取ると、体重30キロくらいのガリガリ状態で研修所に来られますが、本人は「自分は太っている」と思っています。それは、過去の様々なトラウマや思い込みや価値観などによります。人間は誰でも多少の認知の歪みを持っていますが、それが極端になると、社会的不適合を生み出します。