石飛幸三医師に取材をしながら、特別養護老人ホームが抱える様々な問題を2回にわたって考えてきた。高齢化社会が直面しているテーマで、延命治療の是非を含む難しい問題だ。口から物を食べられなくなって自ら消滅しようとしている生命に対して、最新医療技術を施術することで生命の時間延長を強制的に促すことが、果たして幸福なのか?

 病院は治療や延命処置を最優先するものの、特別養護老人ホームの使命は少し違うところにある。要介護者の家族の大きな負担を軽減し、高齢者の残された時間を少しでも豊かにすることであり、そのためには「看取り」が重要になってくる。

 「ホームの本来の使命は、入居者の最期の時を静かに看取ってあげることだと思うんです。ところが、私が今の施設に来た時は、看取りの数はほとんどゼロ。すぐに病院に送りこみ、そこで亡くなるか、胃瘻(胃ろう)や経鼻胃管をつけて施設に戻ります」

 「必然的に看護師の仕事は増大し、大変なストレスを抱え込み、皆が苦しんでいました。つまり、ホームが本来の成すべき看取りの仕事をしていなかったのです」

 石飛医師はこう話す。

常勤医がいない

 なぜこのようなことになっているのか。ほとんどのホームには、常勤医がいないからだ。多くの場合、開業医が本業と兼任しながら、週に2時間ほどホームに来て、看護師からの報告を受けて、薬の処方と指示をする。これは配置医と呼ばれるが、中にはそれさえも置いていない施設もある。

 配置医は、たくさんの外来患者を診ているので、ホームでの看取りにつき合う余裕は時間的にも精神的にもないし、家族とゆっくりと話し合って人間関係を深めることもできない。