日本で生まれた心理療法としては、森田療法や内観療法が有名だが、近年注目を集めているのが、宗像恒次氏(筑波大学大学院教授)が開発したSAT療法(サット療法)だ。
構造化連想法と訳されるイメージ療法で、がんやうつ病、様々な心身症の治療、メンタルヘルスの現場で用いられている。特に、がん治療の現場では、免疫力向上、活性酸素の過剰発生防止、がん抑制遺伝子の活性化といった成果が見られている。
今回は、こうしたがん治療におけるSAT療法について考える。
3歳以前のトラウマが鍵
SAT療法では人間の潜在記憶、特に3歳以前の潜在記憶に注目する。宗像氏は『カウンセリング医療と健康』(金子書房)の中で次のように述べている。
「乳児期、出産期や胎児期のネガティブ感覚が記憶されていて、それが幼児期や学童期などの恐怖感、焦り、絶望感、怒りなどの心傷感情を条件づける感覚的源泉になる」
例えば、胎児期に母親が何らかの原因で強い不安などに晒されていると、それが胎児にも伝わり、母親のネガティブな感情が定着するという。また、出生時の胎児に生命の危機に関わるような事態が生じた場合もトラウマとして残る。
さらに興味深いのは、出生以前の母親の感情が胎児に伝えられることもあるという点だ。例えば、前の子供を流産した場合に、「今、あの子が生きていれば○歳だわ」などと、母親の悲しみや不憫な感情が新しく生を受ける胎児に伝えられ、結果として、現実には存在しない子供に対する感情が生まれる子供に混入する。
その結果、身体は1つなのに、そこに複数人格の感情や欲求が育てられ、自分の中に別人格の感情が生まれ、感情が常に矛盾し合うような事態が生じるというのだ。
ネガティブな潜在意識を変革する
人間は誰しも、「こういう自分になりたい、こういう生き方をしたい」と思って意識的に努力しても、それとは逆の感情や意思がどうしようもなく湧き上がってくることがある。
SAT療法では、こうした強い情動は一般に、過去の心傷体験による感情がフラッシュバックして蘇ると考える。
こうした潜在記憶を変革するのがSAT療法の狙いである。その具体的な方法については詳しくは触れないが、簡潔に述べると次のようなものだ。
独自のカウンセリングによって、父母、さらには祖父母や曽祖父母の時代まで時間的に遡り、再養育して自分本来の生き方ができるイメージをつくり上げる。