物が食べられなくなれば、死ぬ――。
動物であればごく自然な道理であるが、人間は高度に医療を発達させることで、この自然の摂理を超えた。寝たきりで物が食べられなくても、鼻から胃に管を通す「経鼻胃管」や胃に穴を開ける「胃瘻」(胃ろう)などを使って、水分や栄養物を直接胃に送り込むことで、生き続けることが可能になったのだ。
本当に患者のための「経鼻胃管」「胃瘻」なのか
ただし、そこには多くの問題が伴っていることは、前回触れた通りだ。
難しいのは、こうした処置を施される患者の多くは認知症のために、自らの意思表示をしにくい点である。患者自身が「そこまでしないでほしい」と言えればそれまでなのだが、それができない以上、判断を下すのは家族となる。
家族にしてみれば、少しでも長く生きてもらうための方法があるのなら、それを拒否することには抵抗がある。ましてや医者から勧められれば、多くの場合それに従わざるを得ないだろう。
前回、口から物を食べられなくなった場合の終末医療のあり方について、主に「経鼻胃管」や「胃瘻」を中心に、その問題点について石飛幸三医師に聞いたが、今回はさらに「過剰な水分と栄養の摂取の問題」を中心に考えてみる。
過剰摂取は、心不全や肺水腫を引き起こす
人間には1日に必要な栄養摂取量と水分摂取量があり、年齢や性別によって異なっている。例えば、18歳から29歳の男性の必要カロリーは2650キロカロリー、女性は2050キロカロリーと言われている。年齢や性別によって計算式があり、高齢者は当然少なくなる。
ところが問題は、寝たきりの高齢者に必要な量がはっきりと分かっていない点だ。
石飛医師は言う。
「そもそも90歳前後の超高齢者の基礎代謝がどのくらいなのか正確には分かっていないし、運動量が極端に少ない高齢者にはどのくらいのカロリーと水分量が適切なのか明らかにしている論文が見当たらないのです」