2011年8月末から9月前半にかけて、韓国政界は大揺れだった。次期大統領候補の1人だったソウル市長が「自爆辞任」し、その後任に「韓国のビル・ゲイツ」とも言われるベンチャー創業者が一時名乗りを上げ、世論調査で圧倒的な支持率を記録した(その後出馬辞退)。

 2012年末の大統領選に向け、絶対的本命だった朴槿恵(パク・クネ)議員に対する挑戦が始まった。

 8月末以降の政界は、めまぐるしく動いた。最初の主役は、与党ハンナラ党の呉世勲(オ・セフン)前ソウル市長(50)だった。高麗大卒業後、弁護士から国会議員となった呉氏は、180センチを超える長身と甘いマスクに加え弁も立ち、党内でたちまち頭角を現した。2006年には李明博(イ・ミョンバク)現大統領の後任としてソウル市長選に当選。2010年に再選を果たした。

裏目に出たソウル市長の賭け

 メディアの注目を集めるソウル市長に再選したことで知名度は一気に上がったが、呉氏にはひ弱なイメージがつきまとった。韓国の大統領は強大な権限を持っており、有権者は強いリーダーシップを持った候補に票を投じる。呉氏にとっては決定的なマイナス要因で、次期大統領候補としては、朴槿恵氏に比べて大きく出遅れていた。

 そんな呉氏の「強さ」を試す機会がやってきた。2010年のソウル市の教員監(教育委員長に相当)選挙で、野党が支持した候補が「小学校給食の完全無償化」を掲げて当選した。野党が多数を占めたソウル市議会もこれを支持し、「完全無償化は人気取りばらまき政策」と反対する呉氏と真っ向から対立した。

ソウル市長の涙の訴え、市民に届かず 給食無料化めぐる住民投票不成立

無償給食の住民投票で賭けに出た呉世勲氏(右)〔AFPBB News

 呉氏は、「無償給食」を住民投票にかけることを決めた。教育監や市議会の反対を自分の人気で押し切り、同時に「反対に屈しない強い市長」のイメージを作る戦略だった。

 だが、思惑は見事に空振りした。ソウル市民は、「完全無償化」と「一部無償化」という大きな差がない争点を政治問題化して住民投票まで実施する呉氏のやり方に違和感を持った。8月24日の住民投票の投票率は25%。「投票率が3分の1に達しない場合、住民投票は無効」という規定によって、開票もできなかった。

 「住民投票に市長職を賭ける」と公言していた呉氏は辞職し、ハンナラ党次期大統領候補の1人が早々に消え去った。ちなみにソウル市教育監も、2010年の選挙の際、ライバル候補だった大学教授に立候補を辞退させる見返りに2億ウォンを支払ったとして買収容疑で9月10日に逮捕されてしまった。