前回は、サッカーのファンタジスタたちを例に取り、彼らの持つ力を3つの要素にまとめてみた。つまり、(1)「人に見えない構図を読み解く想像力」、(2)「人を圧倒的に凌駕する卓越した技術力」、(3)「一瞬にして人の心を駆り立てる神通力のようなコミュニケーション力」の3つである。

 これらの要素の重要性は、サッカーのみならず企業にも大いに当てはまる。企業に読み換えてみると、独自のビジョンを描き、競争相手を凌駕する技術力を磨き、組織は阿吽の呼吸で1つとなって、他にはない付加価値を生み出す企業──、そんな記述となる。これを「ファンタジスタ企業」「ファンタジスタ経営」と呼んでみたわけである。

ワクワクするかどうかにこだわるワタミ

 例えば、外食産業から出発し、介護事業、農業、学校経営と幅広くビジネスを展開、今や日本を代表する起業家の1人であるワタミの渡邉美樹社長は経営者に必要な資質として、以下の3つを挙げている。

 「実現したい未来(夢)をイメージする力」「イメージと現実をつなぐ力(発想を戦略化し計画化する能力)」、そして「多くの人間を包み込める包容力」の3つである。

 表現の違い、ニュアンスのずれは多少あるものの、これらは先のファンタジスタの3要素に重なってくる。すなわち、ビジョンを描き、それを実現するための仕事力を養い、遂行するチームをまとめあげて引っ張る、である。

 さらに、渡邉氏の経営上の意思決定における判断基準は、リスクが最小限に抑えられているかどうか、カッコいいかどうか、それを思い浮かべたときに心がワクワクするかどうか、の3つだと言う。

 自分たちがやる以上、「サムシングスペシャル」、すなわちカッコいいかどうかに徹底的にこだわり、心がワクワクするかどうかに思いを馳せる。それこそ大向こうの度肝を抜き、舌を巻かせる。ファンタジスタたちの心意気そのものではないか。

 「ファンタジスタ企業? なんだ、象徴的に登場するのがお馴染みのワタミか」とつぶやいた方、侮ることなかれ、である。今の日本を取り巻く不安や混沌、閉塞感の中で、世の中に活力を取り戻そうという元気印、渡邉氏がその1人であることは議論をまたない。彼の経営へのこだわりに「カッコいいかどうか」「ワクワクするかどうか」が大きな位置を占めているというのは物凄くクリティカルな、勇気づけられる情報ではないか。

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 さて、前置きが長くなったが、今回は1つ目の要素である「人に見えない構図を読み解き、ビジョンを描く想像力」について考えてみよう。

 ここでのカギは、「人に見えない構図」が、「ああ、そうだったんだ」「なるほど、こういう手があったか」と誰もが瞬間的に納得するような絵柄になっていることである。逆に言えば、そのような絵だからこそ、ひとたびの夢想にとどまらない、未来を形づくるビジョンに値するのだ。

 例えばサッカーの場合、観戦者の多くはそこをパスが通ったことによって、初めてプレイヤーの配置の妙や瞬間にグラウンドに描かれた多角形に気がつくのだ。ファンタジスタのプレイなしには、そこにそんな図があるとは誰も気がつかない。ただし、いったん気づいてしまえば、それがいかに妥当な、決定的な価値を生むものであるか、誰もがたちどころに納得するのである。一瞬の、コンマ何秒かのうちにビジョンは理解され、ゴールという輝かしい未来を達成すべく全体が連動する。