2009年1月、「CHANGE(変革)」を合い言葉に、ケネディ以来の68%という圧倒的な支持率を得てオバマ政権がスタートしました。しかし、最新の調査では支持率が54%まで低下しています。

 特に、オバマ大統領が目指す医療保険制度改革については、「支持しない」が48%に上っています。この看板公約が実現しなければオバマ大統領は再選も危うくなり、「変革」そのものが水の泡になるとまで言われています。

 私はこのニュースを聞いて、なぜ米国民の半数もが、保険制度全体を公的管理下にする「国民皆保険」導入に反対するのか全くわかりませんでした。

 なぜならば、日本などで導入されている公的な国民皆保険制度においては、誰もが過大な負担なしに医療機関で安心して受診できるからです。

マーケットに値段を決めさせると医療費は高騰する

 公的に医療費の値段を決めず、マーケットに任せた場合、医療費の値段はどんどん高騰していきます。当事者にとって、医療は「需要」というより必需品だからです。そのため、医療は「払うことができるぎりぎりの上限の金額」までつり上げることが可能です。そして(ひどい話ですが)、営利を追求する会社であれば、そこまでつり上げた価格を設定するのが「正義」、しないのが「悪」なのです。

 ですから、公的な国民皆保険のない米国の医療費はものすごく高額です。よく言われることですが、盲腸で1泊入院手術した際の治療費は約250万円、手術を伴わない通常の入院でも1泊40万円ほどにもなります。

 盲腸の手術を終えた人たちが歩けるようになるや否や退院して、病院近くのホテルに宿泊し、そこから診察のために病院に通ってくるというのも当然でしょう。

 健康保険に入っていない人であれば、たった数日の入院で貯蓄を全て失ってしまうかもしれません。また、保険に入っていて、ある程度の収入があったとしても、2割負担で毎日8万円の自己負担が数カ月に及んだ場合は、自己破産する人だって出てくるに違いありません。

 実際に米国内で自己破産した人のおよそ半数が、医療費の高騰が原因だと聞きます。中産階級の人たちが払いきれない医療費によって、いとも簡単に破産に陥っているのです。