浜松の繊維卸会社、ぬくもり工房の大高茂明さんのところに、息子の旭さんが「こんなのができたよ」と言って、ある商品を持ってきた。それを見た茂明さんは「うわっ、なんだこれは」と驚いてしまった。

(有) ぬくもり工房
〒431-3125
静岡県浜松市東区半田山2-24-3

 それは、ぬくもり工房が販売している浜松の伝統的な織物「遠州綿紬(えんしゅうめんつむぎ)」を使って、スニーカーの「コンバース・オールスター」をリメイクしたものだった(下の写真)。

 浜松でオリジナルウエアや雑貨を販売するショップ「IH-LABO」が「どこにもない靴を作りたい」と考え、目をつけたのが遠州綿紬。ぬくもり工房から生地を入手し、誰も見たことがないコンバースのリメイクモデルを作り上げたのだ。

気づかぬところで次々に商品が誕生

 ぬくもり工房は、浜松の伝統的な織物「遠州綿紬(えんしゅうめんつむぎ)」の生地をインターネット上で販売する会社だ。もともとは茂明さんが社長を務める繊維卸会社、大幸(浜松市)のネット通販部門だったが、2006年4月に有限会社として独立。息子の旭さんが社長に就任した。

遠州綿紬を使ったコンバースのリメイクモデル

 当初、ぬくもり工房が販売する遠州綿紬は年に5000反ぐらいだったが、この3年で販売量は2倍に伸びた。伝統織物という斜陽産業であるにもかかわらず、目を見張る勢いで売り上げを伸ばしている。現在、母体である大幸はほぼ休眠状態。茂明さんもぬくもり工房の仕事に専念し、息子の旭社長を支えている。

 ぬくもり工房がこれだけ急成長を遂げた要因は、埋もれていた遠州綿紬の魅力が世の中に知れ渡り、ファンが増えてきたことにある。

 現在、日本各地の様々な服飾メーカー、ファッショングッズメーカーがぬくもり工房から生地を買い、その生地を使って商品を作り、販売している。コンバースのリメイクモデルもその1つ。他にも着物、シャツ、傘、帽子、財布、カバン、ストールなど、枚挙にいとまがない。

 茂明さんと旭さんは、そうした商品を目にして、「こんな使い方もあるのか」と驚かされることが少なくないという。作り手や売り手が気づいていない商品の魅力や価値を、外部の人間によって気づかされているのだ。

 この構図は、まるでかつての浮世絵のようである。明治時代、浮世絵は国内ではほとんど価値がないものとされていた。しかし、日本のおみやげの包み紙として欧州に渡ったところ、印象派の画家たちが「この絵はすごい」と飛びついた。その結果、欧米で芸術品としての評価が高まり、その評価が日本にも逆輸入されるようになった。

 「遠州綿紬」もそのパターンである。遠州綿紬を織っている職人や地元の問屋の人たちは、遠州綿紬にそれほどの価値があるとは考えていなかった。だが、外部の世界の人たちが魅力を発見してくれたことによって、息を吹き返した。