毎年、通常国会の会期末が近づくと、霞が関は官庁人事の季節になる。2008年末に官庁ごとの天下り斡旋廃止を目的とする組織が発足しているため、今年は役人の再就職事情が様変わりしそうだ。だが、天下り斡旋廃止に対する官僚側の反発を見ると、どう考えてもこの組織は不要ではないだろうか。

トヨタ、レクサスのコンバーチブルモデル登場

レクサス国内営業、天下り経産OBが担当〔AFPBB News

 トヨタ自動車は6月23日の株主総会で、経済産業省から天下り、顧問を務めていた小平信因・元資源エネルギー庁長官の常務昇格を決めた。高級ブランド、レクサスの国内営業と営業企画を担当する。同社では山本幸助元副社長、中川勝弘前副会長に続く、経産省OBの役員登用になる。

 人当たりが良く敵が少ない小平氏は、長野県の伊那北高校出身。かつてヤッシーこと田中康夫氏の対抗として、長野知事選に出馬も噂された実力者だ。現役時代は通商産業政策局や製造産業局の次長を務めるなど、国内外に顔が利く。

 通商産業省時代に振りかざした自動車対米輸出枠などの許認可権が、今の経産省にはない。それでも現役時代に培った小平氏の豊富な経験と人脈は、トヨタにとって「十分利用価値がある」(奥田碩相談役)というわけだ。

 だが、今後は小平氏のような絵に描いたような天下りが難しくなるだろう。財団法人理事長に転身した某省の元トップは次のように指摘する。「今までは何もしなくても役所が次の就職先を世話してくれていたが、これからは天下りも、それを繰り返す『渡り』もできなくなる。すべての元凶はあの組織ですよ」

役所OB「別動隊」・・・センター発足後も隠れ蓑が

 「あの組織」とは何か。2008年12月、内閣府に設置された「官民人材交流センター」のことだ。

 「役所が予算や権限をちらつかせて天下りを強要し、談合など官民の癒着の温床になっている」という批判に応えるため、政治家主導で発足した。今まで省庁ごとに行っていた国家公務員の退職後の再就職斡旋を、このセンターが一元化する。つまりは役人の天下り斡旋機関だ。

 当初は、各省庁の斡旋廃止まで3年の経過期間が認められていた。そのはずなのに、麻生太郎首相が2009年2月、2009年度予算案に関する衆院質疑の中で「渡りと天下りを今年いっぱいで止める政令をつくりたい」と表明したものだから、省庁による斡旋が前倒しで廃止される事態になった。「天下り適齢期」の役人は今、戦々恐々としている。

 天下り斡旋の廃止に対する官僚側の反発は、センターの発足前から凄まじかった。

 2007年7月、この組織の制度設計を検討する有識者懇談会が、斡旋を受けて民間企業に天下っていた元事務次官OB7人にヒアリングしようと出席を要請。ところが何と、全員が欠席したのだ。当時、要請を受けていた某次官OBに出席の有無を聞くと、「海外出張をつくった。あんな会議に出るのは時間の無駄」と切り捨てたものだ。

 センター発足後も、元郵政官僚は「隠れ蓑は幾つもある」と打ち明けた。その手口のひとつは、役所が再就職を斡旋する代わりに、民間企業に天下ったOBたちが「別働隊」となり、勤め口を仲介するというものだ。彼らの身分は既に役人ではないから、表向きは何の問題もない。

 もっとも、キャリア官僚はおしなべてプライドが高く、「先に民間に下った同僚は、役所に残っている自分よりレベルが低い」と考えるので、「秘書課から言ってくるなら素直に聞くが、何であいつに再就職の面倒を・・・」と抵抗する向きが多いという。

 あるいは、民間企業の担当者から直接、役人側にコンタクトを取らせる手もある。企業が望んだ天下りは役所の押し付けではないため、民間から「こういう人物を採りたい」と要請された場合、センターの設置法にはそれを妨げる記述が特にない。

 同様に役人が官庁退職後にセンターを利用せず、自ら働き掛けて職務と密接な企業に天下りをするケースにも規制はないという。