内外ギャップに板挟み、苦悩する日本の金融当局

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トラウマあり、公的資金に拒否反応(参考写真)〔AFPBB News〕

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 しかしながら、米英を中心に「自己資本規制を強化すべきだ」という国際的圧力は衰えない。もはや専門家レベルの技術論ではなく、政治的テーマと化したからだ。

 巨額の税金を投入して救った金融機関に対し、国民感情が厳しくなる事態はバブル崩壊後の日本が経験済み。一方、今回の金融危機は行き過ぎたレバレッジが「主犯格」だけに、「規制を強化すれば、レバレッジが低下する」という単純な論理は納税者に分かりやすく、政治的に有効だと言えよう。

 「高レバレッジ商品の取り扱い自体に規制を加えても、決して金融産業は発展しない。この産業は低いROA(総資産利益率)に苦しんでいたが、高度な金融技術を駆使したデリバティブ(金融派生商品)を開発した結果、目覚ましい発展を遂げたではないか」。米英には、こうした信念が存在しているのだ。

 日本国内でも、邦銀の低収益体質を嘆く論調の中には、「外銀の大胆な戦略を見習うべきだ」という主張が散見される。とはいえ、国内世論の大勢はやや社会資本主義と言える立場に基づき、「邦銀は地道な資金仲介機能を果たすべし」というものであり、これでは確かにROAの大幅改善は期待できない。

 この点に関して、主要国際世論と日本国内との間で相当のギャップが生じているのだ。換言すれば、その間に挟まれて「日本型金融」を目指す邦銀と、国際統一基準というグローバル経済の要請を無視できない日本の金融当局は、極めて苦しい立場に立たされている。

「落とし所」探り、「条件闘争」に転換すべき時期

 日本の金融当局はこれまで何とか健闘しているが、国内世論に基づいて「日本型金融」論を声高に叫んでも、国際的な政治圧力を完全にかわすことは不可能と思われる。

 まずは、海外との認識ギャップを国内でしっかり意識する必要がある。マスコミがこの論点を積極的に取り上げ、日本の「落とし所」を探る議論を盛り上げるべきだ。その中には、日本における金融産業に対し、社会が何を期待するかを整理する作業も含まれよう。

 その上で、「厳しい自己資本規制は、高レバレッジ商品に限定」「自己資本比率を算定する際の資産を事実上緩和し、邦銀の自己資本比率カサ上げ」など、現実的な「条件闘争」に金融当局は持ち込むべきではないか。

 だから、現在のような内外認識ギャップが存在するままでは、和平交渉に「自決か、あるいは戦争突入か」の判断しか許されない代表団を送り込むようなものだ。

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各国官僚が主導するBIS本部(スイス・バーゼル)〔AFPBB News

 また、この問題を政治の場に持ち出そうとする動きに対し、日本が抵抗するのも容易ではない。

 具体的には、米欧は自己資本規制の討論の場を金融専門家が集う国際決済銀行(BIS)から奪い取り、政治家主導の国際会議、例えばG7やG20に移そうとするだろう。実際、ガイトナー米財務長官は今年4月のワシントンG7で、こうした見解を表明した模様だ。

 米英ではとりわけ、金融監督機関が今回の危機で対応力の欠如を露呈し、国民の信頼を失った。このため、「監督機関が代表を送り込んでいるBIS委員会ではダメだ」という意見が通りやすい環境にある。

 それならば、G7やG20にも席が用意され、国際的な連携意識が強い「中央銀行クラブ」に属する日銀に対し、こうした問題を真正面から受け止める気概を期待したい。

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米の狙いはG20「裏交渉」か〔AFPBB News

 最近のG20を、米国は好んで国際世論形成の場として利用している。中国など国際金融界で馴染みの薄い個別国と単独に「裏交渉」を進めながら、正式な場では日欧を封じ込めて米国の意見を通しやすくする外交戦術だと推察できよう。

 G7であれば、欧州中央銀行(ECB)をはじめ欧州大陸国の存在が大きいため、日欧でタッグを組めば対米牽制も不可能ではない。リーマン・ショックという「原罪」を背負う米国は嫌がるだろうが、わが国が「日本型金融」の姿を国際的に認知させたいのなら、BISの次はG7が「砦」になると認識すべきだろう。