あまり報道されていないが、日本の金融当局が国際会議で奮闘しているテーマがある。「100年に1度」の経済危機に伴う、金融機関に対する自己資本比率規制の見直し問題のことだ。

 今年4月のG20金融サミットでは幸い、日本はドイツなどとスクラムを組み、何とか規制強化の先送りに持ち込んだ模様だ。日本では持ち合いがもたらす株式保有リスクが大きい上、米欧のような公的資本注入が進んでいないため、規制を強化されると金融機関の貸し剥がしが促進されてしまう。

 それどころか日本の国内問題としては、2009年3月期末に向けて最低自己資本比率規制を引き下げようとする政治的圧力が高まっていたから、大半の国民はまさか規制強化が国際的に議論されているとは思いもよらないだろう。

盗人猛々しい! 米欧の規制強化論

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 実際、日本の主張は筋が通っていると考えられる。最近、海外では「本来の金融仲介業務とは利ザヤが薄いものであり、薄利多売が収益の向上をもたらす」と分析する研究が進んでいる。この観点からは、高レバレッジ商品を闇雲に取り扱い、暴利を享受してきた過去10年ほどの欧米金融機関の経営が、むしろ歴史的トレンドから乖離しているという。

 伝統的な金融仲介機能を銀行の本来業務とするなら、自己資本規制の強化は資本効率や本来機能を低下させることになる。

 また、米英の金融機関は当局から巨額の資本注入を受け、既に自己資本を積み上げている。それを土台にして他国の金融機関に自己資本規制の強化を迫るなら、「盗人猛々しい」という感情論を日本人が抱いても間違いではあるまい。

 なぜなら国民感情を踏まえれば、銀行に注入された公的資金は「早期に返済しろ」という圧力を常に受けるからだ。こうした「逃げ足の速い」資金を自己資本に堂々と算入する理屈は、簡単には通らない。筆者の記憶では、日本の当局はかつて実質自己資本を計算する際、公的資本注入分を控除していたはずだ。