鮮やかな青い波間に、咲き誇る南国の大輪の花。
大分県別府市の観光港に高さ4.5メートル、幅20メートルの巨大壁画が出現した。源泉数、湧出量ともに日本一を誇る温泉観光地・別府に、なぜか今、現代アート作品が溢れている。仕掛け人は、新進気鋭のアーティスト・山出淳也(やまいで・じゅんや)。4月11日にスタートした現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」が、かつての賑わいを失った温泉街に新たな風を吹き込む。(敬称略)
「混浴温泉世界」――なんとも怪しげなイベントタイトルだが、めくるめく混浴パーティーを期待してはいけない。あくまでも、芸術祭である。身分も地位も関係なく、地元住民と旅人の隔てもなく裸になって温泉に浸かるひと時のように、「混在する様々な価値観を認め、尊重した上で手を取り合う」多文化共生への願いが込められているという。
世界のアーティストが別府で作品制作
祭典の柱となるのは、8組9人の海外アーティストがこのイベントのために制作した作品を探して、別府市内をめぐる「アートゲート・クルーズ」。冒頭で紹介した巨大壁画は東京出身で上海やブリュッセルを拠点に活動するマイケル・リンの作品だ。トルコ出身でパリ在住のサルキスは中心市街地にある古い神社を舞台にした作品を制作した。台湾出身タレントのインリン・オブ・ジョイトイは路地裏の空き家に、昭和の香が漂う「茶漬け屋」を再現。店の2階にはおかみの内面世界を象徴する部屋を作り、強く、たくましい女の生き方を表現した。
山出は、「世界中で活躍しているアーティストが別府にどんな印象を持ち、何を考え、どのように作品を作っていくかに興味があった」という。出来上がった作品を持ちこんで、決められた場所に展示するのではなく、別府の町そのものを展示会場にしたり、町の建物や景観、住民までもを作品に組み込むことで、別府でしか成立しないアートを作り出すことがこのイベントの最大の特徴だ。
この他にも、公民館や温泉を劇場空間として別府オリジナルのダンスを生み出す「ベップダンス」、港や神社での音楽ライブ「ベップオンガク」、国内の若い芸術家が取り壊しが決まった古いアパートに滞在して作品を制作する「わくわく混浴アパートメント」などの大小様々なプログラムが最終日6月14日まで展開される。