日系企業は、アジアで積極的な事業展開を進めてきた。特に生産活動においては、中国であれタイであれ「現場育成」を重視し、QCDの向上に日夜取り組んでいる。
日本のマザー工場での取り組みを、海外アジア拠点に展開して定着させようとする際の苦労話をよく聞く。「苦労の甲斐あって工場が育っている」という話が出ると、その場にいる全員が思わずニコニコ顔になる。日系企業にとって、海外アジア拠点は育てがいのある現場のようだ。
昨年、あるタイの日系現場を訪れ、QCサークル活動について聞いた。日本ではQCサークルの形骸化が聞かれて久しい。だが、タイの現場では活動の様子を工場内に掲示してあり、活溌な活動の様子が伝わってきた。
掲示物は色とりどりに装飾され、楽しい雰囲気が滲み出ていた。日本で忘れ去られてしまったとも言えるQCサー クル活動の匂いや活溌さを、まさかタイで嗅ぎ取ることになるとは思わなかった。
一方、ある英国の電化製品工場で、日本人管理者から次のような話を聞いた。英国でのものづくりはやりにくい。人材育成もなかなか難しい。作業者の多能工化、マルチスキル化は土地柄ちょっと無理である。中国の現場には熱気があるが、英国の現場には熱気がない、という。
この話をしてくれたのは、中国に駐在して現場を育て、その後英国工場に異動された方だ。苦労が多いものの育てがいのある現場は、アジアにあるらしい。
この例だけでなく、多くの日系企業は、欧州に比べて東南アジア諸国連合(ASEAN)や中国の拠点の方が「現場を日本色に染めやすい、作り込みやすい」と感じているに違いない。
このように育ててきたアジア拠点を、この先どのように活用すればいいのか。今回は、国際分業の視点から考えてみたい。
チェコ工場を新設、手本となったのはタイ工場
昨今、日系企業が欧州市場向けの前線基地として、中東欧の拠点を活発に設立している。ある日系企業がチェコ工場を設立したのだが、その工場の設計のベースとなったのは、日本のマザー工場ではなく、タイ工場だった。
工場の立ち上げに際しては、タイや中国からエンジニアや作業者が支援にやって来た。また、チェコ工場からは作業者をタイ工場へと研修に出す。チェコとタイの海外拠点間で改善事例交流などを積極的に行っている。