(英フィナンシャル・タイムズ紙 2024年11月13日付)
2たす2は4なのだ
5でもなければ3でもないと思いながら
人は長らく悲嘆に暮れてきた
これからもずっとそうなのだろう
(A.E.ハウスマン)
1810年、米国では労働力の81%が農業に従事していた。製造業に携わるのは3%で、サービス業は16%だった。
1950年までには農業の割合が12%にまで落ち込み、製造業は24%でピークを迎えた。サービス業の割合は64%にまで拡大していた。
そして2020年までには農業が2%を下回り、製造業が8%、サービス業が91%となっている。
この割合の推移は、現代の経済発展で見られる雇用のパターンにほかならない。
大国であろうと小国であろうと、貿易収支が黒字であろうと赤字であろうと、豊かになっていく国ではこのような展開が広く見られる。
これは言わば鋼鉄の経済法則だ。
雇用パターンの仕組み
このような展開をもたらす原動力は何なのか。
ハーバード大学ケネディ行政大学院とピーターソン国際経済研究所(PIIE)に籍を置くロバート・ローレンス氏は新著『Behind the Curve — Can Manufacturing Still Provide Inclusive Growth?』で、この問題を数種類の数字を使って説明している。
その数字とは、全雇用者数に占める上記3産業の当初のシェア、各産業が生産するモノやサービスの「需要の所得弾力性」と「代替の弾力性」、そして生産性の相対的な上昇率だ。
所得弾力性とは、所得が1%増える時にモノやサービスの需要が何パーセント増減するかを測った値で、代替の弾力性とは、価格の変化が需要に与える影響を測った値のことだ。
そして、このシンプルなモデルから得られる結果の一つが「スピルオーバー(波及効果)」だ。
ある産業で何が起きるかは、ほかの産業で起きていることにも大きく左右されるということだ。
まず、経験的事実に基づいたシンプルな想定を行う。第1に、生産性の伸び方が最も速いのは農業で、その後を製造業とサービス業が順に追う。
第2に、需要の所得弾力性は農業では1より小さいが、製造業では1より大きく、サービス業ではさらに大きい。
第3に、代替の弾力性はいずれの産業でも1より小さい。