科学の対象によって、それぞれ適切なアプローチがある。

(篠原 信:農業研究者)

 科学には、3つの「作法」があることをご存知だろうか。

 実験科学、観察科学、理論科学。

 この区別は、科学の仕事に従事している研究者ですら十分意識化できていない人が多い。このために、「あんなのは科学的ではない!」と、ちょっと見当違いの批判をするケースが、研究者の中でも見られることがある。

 しかもこの3つを区別することは、ビジネスの世界でも役に立つ。知っておいて損はないと思うので、紹介しておこうと思う。

「仮説」と「推論」のつむぎ方

 実験科学は、たぶん、いちばん研究者が多い分野かもしれない。半導体を開発したり、バイオの研究をしたりする人は、大概実験科学だ。iPS細胞の山中教授も、オプジーボ開発のきっかけを作った本庶特別教授も、実験科学の人だ。

 実験科学では、「もしかしたら、こういうインプットをしたらこういうアウトプットが返ってくるかも」と仮説を立て、その仮説を検証できそうな実験を考え、試してみて、仮説が正しいかどうかを検証する。

  観察・推論・仮説・検証・考察。この5段階の手続きを次々繰り返して、現実世界に潜む新たな理論、現象を発見しようというのが実験科学だ。

 他方、観察科学は、人類が誕生する前に起きたことなど、実験したくてもできない研究対象の場合に有効な方法だ。たとえば、崖の地層からサンゴの化石を見つけたとする。すると観察科学の研究者は、たった1つの石ころから大胆な仮説を立てる。「この辺り一帯は、古代、暖かい海の下だった!」。