市場はビジネスモデルの転換を迫っている

 AIエージェントが登場すると、状況は変わります。1人の社員が複数のAIを使い、これまで以上に作業をこなすようになります。

 あるいは、人ではなくAIが直接システムを操作するようになる。そのとき、SaaSを導入する企業にとって、IDの数はもはや売上高や価値の上限を決める指標ではなくなります。

 ここで話題の中心にあるのが、生成AI企業の一つであるAnthropicです。同社の対話型AIであるクロードは、高度な推論やコード生成ができると評価されています。

 企業がこれを単なるチャットボットではなく、自律的に動くエージェントとして活用し始めると、利用の形が変わります。

 IDごとの利用から、処理量やタスク単位の利用へと移行する可能性があるのです。

 AIエージェントは、人の補助ではなく業務の一部を代替します。例えば、問い合わせ対応、契約書レビュー、プログラム修正など、定型化できる仕事をまとめて処理するのです。

 すると、ソフトウエアの価値はログイン人数ではなく、どれだけ仕事を自動で完結できるかに移ります。この変化は、課金の考え方そのものを変えるでしょう。

 投資家が警戒しているのは、単価が下がることよりも予測可能性が下がることです。ここが重要です。

 今すぐにSaaSを利用しなくなる、という話ではありません。

 ID課金は契約更新率が読みやすく、将来売り上げを積み上げやすい構造でした。

 一方、利用量課金や成果連動型に近づくと、景気や業務量の影響を受けやすくなります。その結果、将来キャッシュフローの見通しが不安定に見えるのです。

 さらに重要なのは、AIの利用が拡大しSaaS企業のソフト利用料が安く抑えられてしまい株価が下がるという単純な話ではないという点です。

 むしろSaaS企業側の価格設計が再構築を迫られています。どの単位で価値を測るのかという設計思想の問題です。これは技術の問題というより、ビジネスモデルの問題です。