SNS選挙元年の「推し活」とバンドワゴン効果
高市首相の街頭演説は、SNSで作られた熱気がリアルになった現場だった。
SNSが選挙結果を左右した最初の選挙、いわゆる「SNS選挙元年」は2024年。石丸伸二氏が次点になった東京都知事選、そして斎藤元彦氏が出直し選挙で再選した兵庫県知事選だ。
昨年5月に出版した拙著『日本政治の大問題』(朝日新書・辻元清美氏との共著)で鼎談した際、作家の古谷経衡氏が「石丸現象」について〈具体的な政策はなく、「日本の危機です」など自己啓発本みたいなキラキラしたことに惹かれる人が一定層いる〉と言っていた。
〈「石丸現象」と「斎藤現象」は若干近いところがある〉〈政治がよく分からないから選挙を棄権していた人がSNSを見て投票に動いた〉とも分析していた。今回の「高市現象」もそれに連なっているように見える。
有権者動向を研究する政治学者の井田正道明治大学教授によれば、SNSの影響は本来、知事選や参院選など、選挙期間が長く、選挙区が広くて候補者と有権者の距離が遠い選挙でより強く出やすいという。
全国が289もの小選挙区になっている衆院選では候補者と有権者の距離は近く「現象」は起こりにくいはずだが、「高市総理か否か」という争点設定により、全国で1人を選ぶ大統領選挙のようになったということだろう。
「新聞報道で『自維300議席超うかがう』という情勢調査が出て以降、空気が変わった」という中道前職の声についてはどうか。
中道の選対関係者からも「300議席という文字が躍った影響はあったと思う。優勢と出た方がさらに勢いを増すバンドワゴン」という声があった。
情勢調査によるアナウンス効果については、バンドワゴン効果とアンダードッグ効果がある。アンダードッグは不利と出た方に逆バネが働くというもの。井田教授によれば、有権者の心理的側面だけではなく、優勢とされた陣営の緩みや不利とされた陣営の引き締めが間接的に有権者の投票行動に影響する。今回の場合、アンダードッグは「自民に勝たせ過ぎたらまずい」という心理と行動だ。
しかし結果は、アンダードッグではなく、バンドワゴン効果がより強く出た。SNS全盛時代、批判は好まれない。「対決より解決」が支持される。「いいね」というポジティブな承認欲求が当たり前のSNSの世界で、バンドワゴン効果に流れるのは、当然と言えるかもしれない。
そう考えると、SNSが大きな影響力を持つ時代に、選挙期間中の報道機関の情勢調査で「300議席」という圧倒されるような数字や、「与党で過半数」などの方向性を1面大見出しで記事として出すことはどうなのか。
「報道機関が選挙期間中に情勢調査をやるのは、かつては翌日開票だったので、投票翌日の朝刊に当落予想を出すためだった。そうした数字が永田町の政治記者など関係者に出回ることはあっても、一般に表に出ることはなかった。それがいつのまにか情勢数字を記事化するようになった。今もNHKは当日の選挙特番の当確報道を目的として情勢調査をするから、期間中には報道しませんよね」(民放テレビの元ディレクター)
情勢調査の出し方について、見直しが必要な時期なのではないか。