北方四島から外国船を締め出す意図

 2025年12月27日にロシアは日本外務省に対し、色丹島北部および北西部海域における射撃訓練実施に伴い、2026年元日から2カ月間の船舶の航行に関する通告を出した。当該海域は択捉南部、国後、色丹に囲まれた海域で、外国船を海域に入れさせないという意図がある。

 実は、ロシアは当該海域において2025年1年間に計8回の射撃訓練を実施している。その状況を考えると、1年中射撃訓練をするから船は来るなと言っているに等しい。バスチオン大隊の演習が行われていない一方、比較的短距離の射撃ばかりしていることになる。

 ロシアは現在、北方四島の旧島民による交流事業だけでなく、ロシア側が人権問題と言っていた墓参まで禁止して、日本人を四島に入れようとしなくなった。そもそもバスチオンが配備されている択捉島の太平洋岸にある瀬石温泉や、やはり国後島の太平洋岸にあたる海域を射撃訓練と称して封鎖しているのは、今の状況を見せられないからだろう。

 ロシア軍はバスチオンの存在を公にして抑止に使っていたが、演習したという報道すらされないのは、バスチオンの運用ができていないと考えるのが妥当だ。ちなみに、2025年4月以降、ウクライナ戦線でもバスチオンは使用されていないとされる。

 プーチン政権は2010年の軍事ドクトリンにおいて、NATO(北大西洋条約機構)との戦力差は大きく、核兵器の使用は必須だとした。こうした大きな方針の枠組みに、バスチオン戦略は含まれる。とはいえ、バスチオン戦略での防衛はうまくいっていない。

 2026年1月20日、ラブロフ外相は、岩国基地へのトマホーク発射装置の設置について、地域の安定に悪影響を及ぼすとして、防衛力ではなく攻撃力の増強について警戒感を示した。

 ロシアは一貫して、米軍がポーランドやルーマニアに配備しているMD(ミサイル防衛)システムは防衛ではなく攻撃のためだと主張している。本来、防衛のために使うバスチオンを、ウクライナに向けて攻撃に使用しているロシアからすると、パトリオットPAC-3形態だろうが、トマホークだろうが、ミサイルはすべてロシアに向かって飛んでくると思っているに違いない。

 2025年にはカムチャツカの大地震で幌筵島は津波に襲われた。松輪島には集落がなく、基地を維持することも困難だ。兵力の一定部分をウクライナに持っていかれた択捉にいる軍幹部は、長大な千島列島での任務にさぞかし困っているだろう。だが、プーチン、そして「モスクワは涙を信じない」のである。

安木新一郎(やすき・しんいちろう)
函館大学商学部教授、択捉島水産会理事
専門:ロシア経済、貨幣史
略歴:昭和52(1977)年兵庫県生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科後期博士課程単位取得満期退学。経済学修士。外務省在ウラジオストク日本国総領事館専門調査員などを経て、2023年より現職。
著書:『ロシア極東ビジネス事情』(東洋書店、2009年)。『貨幣が語るジョチ・ウルス』(清風堂書店、2023年)など多数。