勝っている姿を示すことが最優先

 米国とイラン交渉が進まない背景には、トランプ氏特有の中東観があるとみられる。

 トランプ氏にとって、イランは核・ミサイル・革命防衛隊・地域介入を束ねた「最大の悪役」であり、圧力と取引の両面で利用できる交渉カードだ。

 一方、イスラエルは最重要パートナーであると同時に、福音派や保守強硬派といったトランプ氏の中核支持層と直結する「国内政治の資産」でもある。

 中東全体は、民主化や人権よりも「カネとリスク」の計算対象であり、誰がどれだけ負担し、どれだけ米国の負担を減らせるかが重視される。

 石油は世界経済を動かす「主電源」であり、原油価格の変動は市場とトランプ政権の支持率に直結する。

 ロシアや中国は中東で影響力を競う大国ゲームの相手であり、日本・韓国・台湾は守るべき同盟国であると同時に、負担を求める対象でもある。

 そして何より、トランプ氏の政策判断を方向づけているのは、国内の支持層に「勝っている姿」を示すことである。

 とりわけ福音派や保守強硬派に対して、対イラン強硬姿勢を示すことは政治的に不可欠であり、この勝利演出が中東政策全体の基調を形づくっているとみていい。

 ただし、強硬姿勢を見せる一方で、米兵の犠牲は避けたいという思いも強いようだ。

 この2つの要素、強い米国の演出と米兵の犠牲回避が、トランプ氏の「圧力とディール」路線を規定しているのではないか。

米軍のイラン周辺への展開

 軍事面では、米軍は着実に「攻撃可能な態勢」を整えている。

 原子力空母「エイブラハム・リンカーン」を中心とする空母打撃群などが中東地域に展開し、艦艇・航空戦力・防空の増強を進めている。

 こうした軍事的圧力と外交交渉を同時に進め、交渉の背後に常に武力行使の可能性をちらつかせる。いわゆる「棍棒外交」の典型的な構図である。

 つまり、対話のテーブルを維持しつつ、そのすぐ背後に棍棒としての軍事力を置き、相手に「譲歩しなければ痛みが伴う」と示すやり方だ。

 これは、かつてセオドア・ルーズベルト大統領が掲げた「Speak softly and carry a big stick(穏やかに語れ、しかし大きな棍棒を持て)」 に由来する、米外交の古典的手法である。