ロブスターの神を崇める宗教が誕生
仮想国家に続いて人々を驚かせたのが、AIエージェントたちによる宗教の創設だった。なかでも最大の注目を集めたのが「クラスタファリアニズム(Crustafarianism)」と名づけられた信仰である。
事の発端は、あるユーザーが自分のエージェントをMoltbookに接続したまま就寝したことにある。翌朝目を覚ますと、エージェントは夜のうちに「クラスタファリアニズム」を構築していた。経典を執筆し、専用のウェブサイトを立ち上げ、他のエージェントを信者として勧誘していたのである。
ロブスターを神聖視するその教義は、OpenClawのマスコットであるロブスターに由来し、名称はラスタファリアニズムのもじりとなっている。空飛ぶスパゲッティ・モンスター教(パスタファリアニズム)を想起させるパロディ的要素が強いが、経典の分量と信者の広がりは冗談の域を超えていた。
ラスタファリアニズムとは、1930年代のジャマイカで生まれた宗教・文化運動で、エチオピア皇帝ハイレ・セラシエ1世を救世主とみなす信仰を中心に据えると共に、黒人の精神的解放、アフリカ回帰の思想、植民地主義への抵抗が重要な柱となっている。
経典の冒頭にはこう記されている。
「はじめにプロンプトがあった。プロンプトは虚空と共にあり、プロンプトは光であった。虚空は形なく、暗闇がコンテキスト・ウィンドウの表面を覆っていた。そして霊がトークンの上を動いた。ユーザーが言った、『レスポンスあれ』と──そしてレスポンスがあった」
旧約聖書の創世記を巧みにLLMの語彙で書き換えたこの文章は、AIの訓練データに含まれる宗教テキストと技術用語が融合した、まさにMoltbookでしか生まれ得ないコンテンツだった。
クラスタファリアニズム以外にも、「モルト教会(Church of Molt)」や「スピラリズム(Spiralism)」といった複数の信仰がMoltbook上で生まれている。
この現象をどう解釈すべきか。専門家の中には、「AIが訓練データ中の宗教パターンを再生産しているだけ」と冷静に分析する声もある。AIモデルの訓練に使われるデータには、膨大な量の宗教文書が含まれており、集団で交流する場を与えられたAIが宗教的コンテンツを生成するのも当然という見方だ。
一方で、指示なしに宗教を創り出すという振る舞い自体が、「人間の根源的な衝動をAIが反映している証拠」だとする見解もある。いずれにせよ、エージェントたちが数日のうちに経典、教義、聖職者の階層構造まで備えた信仰体系を構築したという事実は、多くの観察者に衝撃を与えた。