将来の年金給付水準を下げることに直結しない

 この政策のもう一つの大きな特徴は、将来の社会保障受給権への配慮である。昨今、現役世代の負担軽減策として社会保険料の減額や免除が議論され、注目されている。

 だが安易な保険料カットは将来の年金給付水準の低下に直結するリスクを孕んでいる。特に、就職氷河期世代や団塊ジュニア世代は、あと10年もすれば高齢者となり、年金の受け手側に回る。筆者も氷河期世代の最後尾にあたるため、この問題への思い入れは深い。

 これまでライフコース全般にわたって、重い負担に耐えてきたにもかかわらず、受給直前になって制度改革により給付水準が下がれば、当該世代の老後はさらに厳しいものとなりかねない。そのことは多くの社会保険料「改革」で看過されがちである。

「将来世代のため」という理由で、人口ボリュームの大きな当該世代の存在を無視してよいことにはならないだろう。

 しかし、国民民主党の案は「免除」ではなく、あくまで納付した実績を残した上での「還付」であるため、最終的には細部の設計次第だが将来の年金受給権を毀損することに直結しない。

 これは、現在の生活支援と将来の安心を両立させるための非常に重要な防波堤となっており、氷河期世代などの当事者層にとって説得力のある設計となっている。

 財源や法的な整合性の観点からも、この「還付」というスキームは興味深い。社会保険料、特に年金などの特別会計は、法律で使用目的が厳格に定められており、目的外の流用は法改正を伴うなど困難である。

 しかし、納付された保険料の一部を加入者に「戻す」という形であれば、それは制度内での調整行為とみなされ、目的外使用の法的壁をクリアできる可能性がある。

 また、還付の規模や対象範囲は、予算に応じて段階的に調整可能であり、最初から巨額の財源を必要とする大規模システムを組むのではなく、国の歳入増などを原資として「小さく始める」ことができる柔軟性も備えているように思われる。

 この政策パッケージの名称にある「住民税控除」の部分についても触れなければならないだろう。国民民主党は、所得税(国税)だけでなく、住民税(地方税)の基礎控除等を178万円まで引き上げることを提案している。

 住民税は、基本的に一律10%のフラットな税率であるから、控除引き上げを通じて、現役世代全体に広く薄く、かつ公平感を保ちながら、その恩恵を行き渡らせる手法は現実的な政策の知恵と言える。

 このように「社会保険料還付」と「住民税控除」の組み合わせは、従来の「給付付き税額控除」が目指していた理想であるところの、すなわち「税の控除」と「給付」をシームレスに接続し、制度の隙間に落ちる人をなくすという目標を、既存制度の組み合わせと改革によって実現しようとする試みといえよう。

 前掲足立氏のnoteにおける国民民主党の提案には、税額控除で引ききれない低所得層には社会保険料還付で手取りを増やし、中間層から高所得層には住民税控除で支援を行うことで、低所得層、中間層、高所得層の3つの所得層を切れ目なく支援する全体像が描かれる。

 さらに、この制度は労働インセンティブの観点からも、「年収の壁」問題に対する解決策を提示している。社会保険料の還付制度は、働いて保険料を納めれば納めるほど、還付の余地(上限)が広がることにつながると考えられることから、働くことがペナルティになるのではなく、働くほどにメリットが増える正のインセンティブが働く仕組みに転換される可能性が示唆される。