国民民主党による発想の転換
まず、なぜ日本において給付付き税額控除の導入が進まなかったのか、その背景を振り返る必要がある。この制度の核心は、本当に支援が必要な低所得者層を特定し、適切な給付を行う点にある。しかし、これを公平に行うためには、フロー(所得)だけでなく、ストック(資産)の把握が不可欠となる。
所得が低くても多額の資産を持つ富裕層に給付が行われることは、社会的な公平性を著しく損なうことになりかねない。
前述のようにマイナンバー制度の導入により、こうした資産把握への道が開かれることが期待されたが、現実には預貯金口座との紐付けや資産全体の完全把握には至っておらず、制度設計の前提となるインフラ整備は道半ばである。
さらに、富裕層の中には法人を設立し、資産や売上を法人名義に分散させることで個人の所得を見かけ上低く抑える「節税」策を講じているケースも少なくないとされる。
生活と実質的に一体化した法人を持つ個人の資産まで正確に捕捉しようとすれば、制度設計は複雑化し、いつまでたっても具体化できないというジレンマに陥っていたのである。
事実、古くは2012年の税制抜本改革法において「対応の可能性等を含め様々な角度から総合的に検討する」(第7条 第1項 第1号 イ)と明記されながらも、15年近くにわたり議論が空転してきたのは、まさにこの「完全な所得・資産把握」という迷路から抜け出せなかったためである。
国民民主党が提唱する「社会保険料還付付き住民税控除」の注目すべき点は、この膠着した議論に対し、「社会保険料」という既存の物差しを持ち込むことで、現実的な解決策を提示しようとする点にある。
これは一種の「コロンブスの卵」的な発想の転換と言える。提案の骨子は、従来の税額控除の議論に加え、社会保険料の支払額を上限として現金を還付するという仕組みを提案する。
ここで重要なのは、社会保険料を支払っているという事実そのものを、給付対象者のフィルタリング機能として利用している点である。
社会保険料を納付しているということは、現役世代として就労し、報酬を得ていることの証明となる。このフィルターを通すことで、資産を持ちながら働いていない富裕な高齢者などを定義上、対象から除外し、複雑な資産調査システムを構築することなく、規模や対象に応じた社会保険料の還付や負担軽減を実現できる可能性がある。
さらに、この手法が秀逸であるのは、社会保険料の等級(標準報酬月額)という既存のデータを活用できる点である。社会保険料は所得に応じて上限があるなど課題はあるが段階的に設定されており、このデータが既に存在していることになる。
つまり、ゼロから新たな所得把握システムを構築せずとも、既存の社会保険の仕組みを利用することで、フロー(所得)に応じた設計が期待できる。
ある意味では資産把握に依存することなく、既存の制度を流用することでコストを抑えつつ、高い蓋然性でターゲットを絞り込めるという点で、政策実務の観点からも合理性が高いアプローチにみえる。
