報われない「副業おじさん」

 男性たちが副業をする理由として、30代は「生活費」、40代は「教育費」、50代は「老後不安」があった。

 そこからは、これまで国や企業が負っていた役割を、副業によって個人が肩代わりさせられている構図が浮かんでくる。副業が生活保障、教育費、年金に代わる新たなセーフティーネットへと変貌しつつあるのだ。

 副業は自由裁量があるように語られがちだが、実は生活や将来への不安から選ばされている労働である。

「生活費を稼ぐ」「収入の補てん」というワードからは、上がらない給料と物価高、将来不安への怨嗟の声が聞こえる。さらに副業では体と時間を売らなければ、即金につながらないという二重の苦しみが男性たちを襲う。  

 またワードクラウドからは男性が家計を支えるという役割を、副業によって再定義させられている現実も見えた。取材では「副業していることを、妻や子どもに知られたくない」と言う男性にしばしば出会ったが、いまだ根強い「男は黙って働く」というステレオタイプの男性像が彼ら自身を苦しめているようにも感じた。

 筆者は副業を否定したいわけではない。一つの仕事に縛られず、さまざまな経験や知見を積むことができる副業は、職業人の選択肢の一つとして大いに活用すべきと考えている。しかし現実は、生活が苦しい人、スキルを持たない人が人手不足の穴埋めとして活用されている。
 
 長年企業に守られてきた日本のサラリーマンが市場で戦える職業人として、副業や転職を自由に駆け巡る人材として萌芽するには、もう少し時間がかかるだろう。もし副業に挑戦するなら、ワーカー自身が副業に使われるのか、それとも使いこなすのかを、意識的に問い直す必要がある。

若月澪子(わかつき・れいこ)
NHKでキャスター、ディレクターとして勤務したのち、結婚退職。出産後に小遣い稼ぎでライターを始める。生涯、非正規労働者。ギグワーカーとしていろんなお仕事体験中。著書に『副業おじさん 傷だらけの俺たちに明日はあるか』『ルポ過労シニア 「高齢労働者」はなぜ激増したのか』(朝日新聞出版)がある。