「身体はあまり頭を使わせたくない」
──以前インタビューさせていただいた『スマホ脳』(新潮新書)を書かれた、スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセン氏も「人間にとって最も重要なことは賢くなることではなく、生き延びることだ」と言っていました。
中野:その通りだと思います。脳死といわれる状態があるように、脳が死んでも医療措置を施せば生きることはできますが、腸が死んだら生き延びることは難しい。
──そこに関係があると思いますが、海のパイナップルとも言われるホヤが、自分の脳を食べてしまうというお話は驚きでした。なぜ自分の脳を食べるのでしょうか?
中野:ホヤは、幼生のときには浮遊して泳ぐので、脳があるのですが、固着する岩を見つけてくっ付くと脳を食べるのです。脳は維持しておくコストが高いので、使う必要がないのなら取り除いても差し支えない場合があるのです。
人間でいえば、酸素の4分の1は脳が消費します。カロリーの4分の1から5分の1も脳が消費します。しかし、身体全体に占める脳の重量はわずか2〜3%です。1万人の企業で200人がそれだけのリソースを消費したら、その部署は何をやっているのだと言いたくなりますよね。
しかし人体は、脳を抑えたり犠牲にしたりする判断はしません。筋肉と脳を同時に使わせるタスクを与えると、筋肉に使うさまざまなリソースを奪い取って、脳がそのリソースを消費してしまうのです。それだけ脳の優先度は高いのです。
だから、頭を使わなければならないときに、急にダルさを感じるのです。身体はあまり頭を使わせたくないのです。
脳は何かを考えていないデフォルトの状態でも、フル回転の時の80%ぐらいの状態で動いています。スリープモードでも完全に活動をとめているわけではないのです。
──中野さんは、意識的に脳を休める努力をされますか?
中野:私はそれがなかなか上手くできないんですよ。
──休めるとしたら、どのように休めたらいいのでしょうか?
中野:負荷の低いタスクを行うというやり方が提唱されてはいます。何もしないと、かえって何かを考え始めてしまうので、数独パズルなどのちょっとしたゲームをするという方法です。
中野信子(なかの・のぶこ)
脳科学者
1975年東京生まれ。脳科学者、認知科学者。東日本国際大学教授、京都芸術大学客員教授、森美術館理事。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。医学博士。2008年から10年までフランス国立研究所ニューロスピンに勤務。
長野光(ながの・ひかる)
ビデオジャーナリスト
高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。