選手としてどこまで成長していけるか

フィギュア四大陸選手権、女子シングル、左から2位の中井亜美、青木、3位の千葉百音 写真/AP/アフロ

 1年ほど前、競技を続けるかどうか、悩んだ時期があった。2024年12月、全日本選手権のフリーを終えたあと、こう語っている。

「自分の中でこの全日本に向けて本当に今までで一番いい練習を積めていたので、今回、次につながるものがあったら本当に続けたい気持ちだったんですけど、でもたぶんないので」

 考えた末、指導を受ける中庭健介コーチの言葉をはじめ、後押しを続けて競技生活続行を決めた。

 何事もなくシーズンを過ごしてきたわけではない。6月の捻挫など、アクシデントもあった。

 それでも大会ごとに演技を深めていった。昨年12月の全日本選手権でそれは一度花開き、迎えたのが四大陸選手権だった。

「自分が今までやってきたことというのがしっかり試合で発揮できた結果だと思うので、結果は予想していなかったですけど、今までの努力が報われたかなとうれしい気持ちです」

 それはこの1年に限った話ではない。

 小学生の頃から将来を嘱望される選手として注目された。でも大きな怪我に何度も苦しめられ、そのたびに足踏みを強いられた。

 2021年の全日本選手権ではショートプログラムで最下位の30位、フリーに進むことができず、「いちばんのどん底」と自身も形容するほど打ちのめされたこともあった。

 それでもあきらめず、ときに今後を悩みながらも継続して、四大陸選手権の結果にたどり着いた。優勝という結果もさることながら、何度でも観たくなるような、1つの完成されたストーリーを氷上に創り上げるに至った。

 その演技が伝えてくるものがある。

 選手としてどこまで成長していけるか、どこがピークなのか、答えはない。今、調子が上がらず壁につきあたり、ときには限界だと感じたとしても、あきらめる必要はない、希望を捨てる必要はないということだ。

 そして、長年取り組んできたトリプルルッツ-トリプルループをはじめ、磨かれた技術と行き届いた表現が融合した滑りは、フィギュアスケートそのものを体現している。技術か、表現(芸術)か、の2者選択ではない、フィギュアスケートの魅力を示している。

 四大陸選手権の演技は、青木祐奈の努力の勝利であり、大切な何かを伝える時間でもあった。

*JBpressでの連載「フィギュアスケートを支える人々」(2024年8月30日公開までの一部)と、書き下ろしを含む電子書籍『日本のフィギュアスケート史 オリンピックを中心に辿る100年』(松原孝臣著/日本ビジネスプレス刊)が発売中。青木祐奈のコーチ、中庭健介のインタビューも掲載しています。

『日本のフィギュアスケート史 オリンピックを中心に辿る100年』
著者:松原孝臣
出版社:日本ビジネスプレス(SYNCHRONOUS BOOKS)
定価:1650円(税込)
発売日:2026年1月20日

 冬季オリンピックが開催されるたびに、日本でも花形競技の一つとして存在感を高めてきたフィギュアスケート。日本人が世界のトップで戦うのが当たり前になっている現在、そこに至るまでには、長い年月にわたる、多くの人々の努力があった——。

 日本人がフィギュアスケート競技で初めて出場した1932年レークプラシッド大会から2022年北京大会までを振り返るとともに、選手たちを支えたプロフェッショナルへの取材を掲載。

 プロフェッショナルだからこそ知るスケーターのエピソード満載。

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 フィギュアスケートファンはもちろん、興味を持ち始めた方も楽しめる1冊です。

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