人民日報「胡氏の本は中国国民の『必読書』」と称賛

 しかし胡氏の労働者文学が、中国の経済変革が生み出した歪みを露わにしたにもかかわらず、本が撤去されたりオンラインから削除されたりすることはなかった。むしろ党機関紙、人民日報はこの本はすべての中国国民にとっての「必読書」と称賛した。

「背景に習氏の提唱する『共同富裕』キャンペーンがある。IT大手のアルゴリズムが配達員を極限まで酷使していることへの批判が高まっていた時期であり、エリートではない底辺出身の胡が労働の意味を問い直す姿を称揚することは党の戦略にも合致していた」(前出のFT紙)

「消費社会において人は本当に自由になれるの。これは自由を装っているだけで、実は別種の『終身刑』ではないのか。立ち止まって初めて人生とは何であるかを理解できる」という胡氏の問いかけを利用して習氏は国民の怒りの矛先を自由資本主義に向けることができる。

 地方政府による新築物件の大幅な値下げ販売の制限、不動産税導入の先送りで中国の不動産不況は30年まで続く恐れがある。個人消費も伸びず、中国の若年失業率が劇的に改善する見通しは今のところあまりない。ギグワーカーにも厳しい冬の時代が続く。

【木村正人(きむら まさと)】
在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。