国際協力を否定する動きの台頭

 このように、第2次世界大戦後の国際協力の取り組みは一見順調に進展してきたようにも思われるが、その裏で深刻な矛盾もまた拡大してきた。

 それは、国際協力強化と国家主権維持の間の矛盾である。

 これが目に見える形で分かりやすいのは、気候変動対策としての温室効果ガスの排出規制と各国の産業振興の関係や、難民・移民の受け入れと各国の出入国管理政策の関係であるが、その他の分野でも至る所で協力と主権の軋轢が生じるようになってきている。

 そもそも国際協力を推進してきた根本理念は、弱小国や各国内の弱者に手を差し伸べることによって国際社会や各国内の社会が安定し、ひいては大国や強者も含めたすべての者の利益になるという、リベラルな考え方である側面が強い。

 このようなリベラルな思想は、各国内において政治の民主化や差別撤廃を推進する原動力ともなってきた。

 そしてもう一つ、第2次世界大戦後の国際関係の大原則となっていたのが、自由貿易に基づく世界経済秩序であり、その結果としてグローバリゼーションが進展してきた。

 ところが、近年は経済分野でも中国が貿易を外交的威圧の手段として用いたり、ウクライナを支援する諸国が対ロシア経済制裁を強化したりする流れの中で、経済安全保障が大きくクローズアップされるようになってきた。

 そのような事情の中で、経済においても自由貿易に基づく国際協力と各国の主権の衝突が目立つことが多くなっている。

 また、自由貿易の建前の下で国家の枠組みに縛られない多国籍企業が、場合によっては国家以上の影響力を持つということによっても、国家の経済的な主権は脅かされつつある。

 このように、リベラルな思想や自由貿易の原則が国家主権を次第に侵食していく中にあって、フラストレーションを募らせていたのが、軍事強国において「力」を信奉する指導者たちであった。

 ロシアのプーチン大統領は、アラブの春や東欧・中央アジアのカラー革命という各国内の民主化の動きが次第にロシアに波及してくることを国家主権への脅威だと考えている。

 ウクライナ侵攻はそれを食い止める策でもあった。

 中国の習近平主席は台湾を併合し、周辺諸国を自国の意に従わせて「中華民族の偉大な復興」を遂げることが、中国の国家主権の完成であると考え、軍事力を着々と強化している。

 そして米国のトランプ大統領は、「アメリカを再び偉大に(MAGA)」を掲げて、他国に一方的な関税を課し、イランやベネズエラに対して国際法上疑義がある軍事攻撃を行うなど、「力」を前面に押し出した政治を続けている。

 昨年11月にトランプ政権が発出した「国家安全保障戦略」では、「すべての国が国家利益を第一に掲げて主権を固守することは、自然であり正義である。各国がそれぞれの利益を最優先することで、世界は最もうまく機能する」と宣言されている。

 そして「EUや他の国家間組織は政治的自由や主権を損なう」と、これまでの欧州統合の取り組みを否定した上で、米国は「国際機関による主権の切り崩しを防ぐ」として、国際協力を切って捨てる姿勢を明確にした。

 その延長でこの1月7日、トランプ大統領は、実際に66の国連機関や国際組織、条約などからの脱退を指示する大統領令に署名したのである。

 確かに、強大な軍事力を持つ大国の指導者から見れば、現政権の体制を維持しつつ、移民や麻薬流入など国境を越えた諸問題に対処し、また経済分野も含めた数々の脅威に対処していくには、自国の「力」のみで問題の解決を図った方が手っ取り早いのかもしれない。

 しかしその時、大国以外の諸国はどうしたらよいのだろうか。

 また大国にとっても、そのような短期的な解決が、長期的に見た時に本当に自国の利益になるのだろうか。