対中防衛体制の強化を急げ!

 まず、米海軍が採用しているのが「分散型海洋作戦(DMO)」である。

 中国軍のASBMの飽和攻撃による損害を回避し、戦略的優位性を維持し海上優勢を獲得するため、海上部隊を広域に分散・機動させ、兵器システムのネットワーク化によって戦力を集中・統合し中国軍に対抗する作戦構想だ。

 これと連動して、米海軍は海兵隊による「遠征前進基地作戦(EABO)」、そして海軍と海兵隊混成の沿岸戦闘群(LCG)による「紛争環境下における沿海域作戦(LOCE)」を展開する。

 EABOは、第1列島線周辺の島嶼に対艦・対空ミサイル等による阻止の壁(バリアー)を構築し海軍の海上優勢の獲得に寄与する作戦である。

 LOCEは、中国海軍の戦力をある程度制圧・弱体化させた後、まだ紛争環境下にある沿海域に進入して敵を撃滅する作戦である。

 また、日米両軍は、中国に対し優位と見なされている潜水艦戦や機雷戦などの「水中戦」を重視する戦い方を強化している。

 米国は、対中作戦の最前線基地であるグアム専用の防空網の構築を行うとともに、同盟国と共に弾道ミサイル防衛力の強化にも重点投資している。

 さらに、米国防省の「レプリケーター(Replicator)」構想に基づき、中国の台湾侵攻に当たり、米軍が数千の無人機や無人艇などを配備し、対艦ミサイルや潜水艦などの活動と連携することで、台湾海峡に「無人の地獄絵図」を作り出す「地獄絵図」戦略(「ヘルスケープ(Hellscape)」戦略)を推進している。

 一方、例えば、ASBMが空母を無力化するには、広大な海洋における空母の位置を正確に把握し、空母機動群に属するイージス艦のミサイル防衛網を突破する能力が必要である。

 それを具備していると仮定すれば、技術的にはミサイルが着弾するまでのキル・チェーンを破壊することが必要である。

 まずは、ASBMの指揮統制(C2)システムなどに対するサイバー攻撃が有効である。

 また、ISRセンサーが空母等の目標を捜索する段階において電波管制や電子妨害により、位置情報の取得を困難にすることや、位置情報の伝達手段(ネットワーク)を妨害する方法がある。

 電子妨害やデコイをもってASBM弾頭部のレーダーの誘導を欺瞞し、同システムを機能不全に陥れることなども一つの方法である。

 他方、対処手段だけでなく抑止手段も必要である。

 そのためには、中国の艦艇を海軍基地内、あるいは可能な限りその近傍海域において撃沈し無力化するASBM能力を保持することだ。

 中国が用いた手段を逆手に取り、同じ手段で対抗し戦略バランスを回復するのである。

 我が国は、DF-27以前に、すでに中国の短距離弾道ミサイル(SRBM)および中距離弾道ミサイル(MRBM/IRBM)の射程内に入っている。

 前掲要図の通り、幾重にもASBMの脅威に曝されており、その度合いは米国と比較にならないほど深刻である。

 そのため、同盟国・米国の軍事戦略・作戦構想との融合を図りつつ、弾道ミサイル防衛の実効性を一段と高めなければならない。

 同時に、確かな敵基地攻撃能力の保持や水中戦の強化、対艦ミサイル、無人機・無人艇、能動的サイバー防御や電子攻撃の能力整備など、問題は山積している。

 それらを解決して対処力・抑止力を強化することは、米国以上に我が国にとって必須の課題であり、防衛力の抜本的強化が急がれるところである。