企業協賛は「広告効果」ではなく「共感」と「課題の解決」
ただ、誰もが知っているオリンピックなどとは異なり、準備段階でデフリンピックの認知度は高くはなかった。日本財団が調査したデフリンピックの国内での認知度は、2021年10月時点では16.3%しかなく、2025年5月時点でも38.4%だった。
認知度が決して高いとは言えない中で、協賛した企業や団体は160にのぼった。営業は全て準備運営本部のスタッフが担当している。そのアプローチは、広告の露出を提案するといった従来の営業とは逆のものだったと北島氏が明かす。
「大会を広告媒体として見た場合、広告の価値がほとんどない状態が出発点でした。そこで、営業の担当者がスポンサーを1社ごとに訪問して、大会のビジョンを説明していきました。私たちが営業することでマージンはゼロなので、協賛金を全て運営や選手のために使うことに共感していただいた企業も多かったと思います。
また、重ねて開催したのが、デフアスリートを雇用する企業の交流会です。雇用するにあたって企業はそれぞれの課題を抱えていました。その課題を共有する場として開催したところ、輪が広がって協賛企業が増え、いったん決めた協賛金を増額する企業もありました。広告のように売るものがないので、運営側が提供できるのは『大会を使い倒してもらうこと』でした」
協賛企業の中には、大会のスタッフとして従業員を働かせたいと要望する企業もあった。要望を受けて、一般募集した約3100人のボランティアとは別に企業からの「応援スタッフ」を募ったところ、その人数は600人を超えた。
さらに、手話をテーマにした支援を行う協賛企業もあった。スターバックスコーヒージャパンは、聴覚に障がいのある従業員も働くサイニングストア(手話を共通言語とする店舗)をデフリンピックスクエア内に出展。コーヒーの試飲を振る舞った。聴覚に障がいのあるスタッフが対応することで、訪れた人は手話やスマートフォンなどによる会話を楽しんでいた。
スターバックスは、聴覚に障がいのある従業員も働くサイニングストアを出展
また、ソフトバンクは海外選手のSIMカードや、大会関係者のスマートフォンやタブレットを提供。大会前には、聴覚に障がいのある人が安心して契約の手続きをすることが可能な手話カウンターのあるソフトバンク渋谷店で、デフリンピックのイベントも開催した。スターバックスやソフトバンクのように、さまざまな形での協賛が得られたことも、デフリンピックだからこそだと北島氏は振り返る。
「スポンサーというよりは、一緒に大会を作っていくスタンスの企業が多かったですね。協賛した内容などから価値を計算するVIK(VALUE IN KIND)換算をすれば、かなりの金額です。これだけの支援をいただけたのは、開催に向けた取り組みをひとつひとつ積み上げていくことで、大会への共感が広がったことが大きかったのではないかと感じています」