そこで、今回開発された応援の方法が「サインエール」。「行け!」と表現するときは、両手を顔の横でひらひらさせてから勢いよく前に突き出すなど、身体感覚と日本の手話言語をベースにした「サインエール」で会場は大いに盛り上がっていた。

会場で配られていたサインエール一覧

 日本代表選手団は、バスケットボール女子が決勝でアメリカを1点差で破り史上初の金メダルを獲得するなど、16個の金メダルを獲得。銀12個、銅23個とあわせて、史上最多の51個のメダルを手にした。全体では39もの世界新記録も出た大会だった。

 こうした盛り上がりもあり、会場には約28万人が足を運び、デフスポーツやろう者の文化への理解を深めてもらうプログラムを用意した渋谷区のデフリンピックスクエアにも、5万人以上が訪れた。

デフリンピックスクエア(国立オリンピック記念青少年総合センター・渋谷区)

広告代理店が関わらない国際大会

 デフリンピックは1924年に始まった100年の歴史を持つ国際スポーツ大会で、日本では初開催。世界各国から約2800人の選手が訪れ、国内外の大会関係者を含めると約6000人が関わるなど、大会規模も大きなものだった。

 開催費用は当初見込みの130億円におさまったという。内訳は、都からの補助金が100億円、国からが20億円。それ以外はスポンサーからの協賛で6億円以上を集めるなど、自主財源で賄った。大型イベントでは費用が膨らみがちだが、当初見込み通りで開催できたことについて、大会運営を指揮した北島氏は「地に足のついた大会」だったからだと振り返る。

「130億円以内に抑えた開催費用は、国内で毎年開催されている国民スポーツ大会の開催自治体が負担する費用の総額を下回っていると思います。準備運営本部のスタッフも約200人で、多いとは言えません。また、これだけの規模の国際大会ながら、広告代理店などは関わりませんでした。費用を抑えて選手や観客に満足してもらえる内容になったのは、地に足のついた大会が実現できたからだと感じています」

東京都スポーツ文化事業団デフリンピック準備運営本部 北島隆チーフ・オペレーティング・オフィサー(COO)

 北島氏は東京2020オリンピック・パラリンピックで、選手村運営の総責任者であるヴィレッジジェネラルマネージャーを務めた。準備運営本部のスタッフ約200人のうち、北島氏を含む7割ほどが東京都からの出向で、さらにそのうち3分の1ほどが東京2020の運営を経験している。大会の成功は経験豊富なスタッフが支えたことも要因の一つだろう。