市や区の体育館も利用、会場にはさまざまな工夫
「地に足のついた」もう一つの運営は、国や都の施設だけでなく、市や区などが所有する施設も含めて競技会場として使ったことだ。テコンドーの中野区立総合体育館、バスケットボールの大田区総合体育館、レスリングの府中市立総合体育館など、既存の施設で国際大会を開催した。
会場内でもさまざまな工夫を凝らした。装飾は同じサイズのものを大量に用意して費用や手間を抑え、各会場には必ずフォトスポットになる場所を用意した。
「国際大会の基本は、大きな看板などで装飾することです。海外は装飾が立派な大会が多いものの、日本はどちらかといえば装飾を蔑ろにしがちです。今回は全ての会場をチェックして、装飾の予算の確保にこだわりました。装飾によって選手のモチベーションも、観客の応援の雰囲気も変わってきます」
バレーボール会場のフォトスポット
一方で、選手に対するケアも充実させた。
「選手が運営側に求めるものは、3つあります。そのひとつが食事です。今回は選手村がないので、本来は食事を提供する必要はありませんでしたが、朝早くホテルを出発する選手や、レスリングのように朝7時に計量する選手もいます。コンビニが近くにない会場もありますので、選手たちが栄養を補給できるような軽食を無償で用意しました」
残りの2つは、ランドリー(洗濯)と輸送だ。
「今回、公式ホテルに宿泊している選手には、夜8時に洗濯物を出せば、朝8時には出来上がるサービスを用意しました。3日に1回くらいの頻度で出す分は運営側が負担して、追加分は自費負担です。輸送は試合に遅れては大変なので、もちろん力を入れます。全く苦情が出ない状況にするのは難しいのですが、少なくとも、食事とランドリーについては満足してもらえる状況ができました」
会場の活用や選手へのケアに加えて、大会関係者に対しては東京2020五輪・パラリンピックと同様の取り組みを行なった。1年前に開催された選手団会議では、100ページ以上の大会資料を配布。選手には競技ごとに作成したマニュアルも提供した。これはデフリンピックでは初めての取り組みだ。北島氏は、デフリンピックや国際大会の運営において、今後標準になるものを作ることができたと考えている。
「資料やマニュアルなど、デフリンピックで今後標準となるものは作れたと思います。大会のオペレーションの仕様書もスタッフが作成し、契約については時間もかけて厳格なチェックを受けました。限られた開催費用でもこれだけの国際大会を開催できることを示せたと思います。
また同時に、国内でもこれから国際大会をもっと開催できることを示せたのではないでしょうか。国際大会はどこでもやろうと思えばできます。東京都の職員も東京2020の前は誰も経験がありませんでした。今回盛り上がったのも国際大会だったことが大きいと思います。自治体の施設で国際大会を当たり前に開けるようになればいいですね」
観客動員数などから考えれば、大会後にはデフリンピックの認知度もおそらく大きく上昇したと考えられる。「地に足のついた大会運営」は、障がいのある人、ない人の大会に関わらず、自治体レベルで開催できる国際スポーツ大会のモデルになったといえそうだ。






