フィッセリング教授との出会いと思想的深化
現在のライデン大学 写真/pespiero/イメージマート
西周の留学の目的は、従来の軍事技術修得に加え、幕府から新たに「国治め民富ます道」の修得という重要なミッションが付与されていた。ライデン大学で、西はフィッセリング教授の指導のもと、近代国家運営に必須の知識体系である「治国学」を2年間にわたって体系的に学んだ。
その内容は、法学・ 政治学・ 国際法・ 経済学・ 統計学の5科目に及んだ。これらは、封建的な身分制社会とはまったく異なる原理で動く、近代的国民国家を理解し、運営するための基本ツールであった。これらは当然ながら、日本、そして東アジアにはまったく存在しない概念であった。
フィッセリング教授や、当時のオランダ哲学界の重鎮であったオプゾーメル教授の影響を受け、西の学問的探求はさらに深化していく。西はコントの実証主義、ベンサムやミルの功利主義、さらにはカントの哲学などを体系的に吸収したのだ。
西が獲得した新たな国家ビジョン
『万国公法』の表紙裏
この学習を通じて、西周は西洋世界の持つ二面性を鋭く見抜く。一つは、ヨーロッパ諸国間では「万国公法」(近代国際法)に基づく対等な国際秩序が機能しているという側面である。もう一つは、その同じ国々がアジアに対しては、帝国主義的な侵略と植民地支配を行っているという側面である。
この矛盾を理解した西は、日本が西洋列強と対等に渡り合い、独立を維持するためには、万国公法が通用する近代国家へと生まれ変わることが不可欠であると確信する。具体的には、「封建制から立憲制への移行」なくして日本の未来はない、という明確な国家ビジョンを抱くに至ったのだ。