多忙を苦にけん銃自殺する警察官も

 訴訟を起こした元警察官は、こう言う。
 
「2022年4月の勤務実績簿では、時間外手当の申告を79時間30分で止めました。80時間を超えると、産業医の診察を受けなければならないからです。産業医の診察を受けても仕事がなくなるわけでも休めるわけでもありません。診察を受ける時間があれば、一つでも多く仕事を片付けたいのが、現場の警察官たちの本音です。それに、実際の残業は200時間近くですから、表面上の記録が80時間を超えるかどうかは意味がない。何も変わらないし、もう、どっちでもいいや、となる。多くの警察官が同じです」
 
「かつては『時間外はちゃんと付けなさい。どんな書類であっても嘘はいけない。警察官が作る書類は真実を書かなければならない』と言ってくれる上司もいました。例外的に、ですが。在職中には時間外手当の不払いも含め、県警内のパワハラの問題などを県の人事委員会に訴え出ました。が、何も変わらなかった。結局、人事委員会を差し置いて監察課が出てきて、うやむやのまま処理されたようです」
 
 長時間の勤務、常に強いられる緊張。それに対して正当とは言い難い手当しか付かない。そのやるせなさは、想像に難くない。それでも、警察官だった人物が県警を訴えるとなれば、心理的にも極めて高いハードルがあったはずだ。
 
 その点を原告男性はどう感じていたのだろうか。
 
「正直、元職場に訴訟を起こすことに躊躇はありました。ですが、退職後に二本松警察署の女性警察官がけん銃自殺し、相次いで福島警察署の男性警察官もけん銃自殺したニュースを聞いて決意が固まりました。2人とも異常な長時間の残業や休日勤務を繰り返していたことを後から関係者に聞いて知ったからです。数年前には、いわき中央警察署の交通係の警察官が業務多忙を苦にけん銃自殺した事案もありました。現場の警察官を使い捨てるような、このような働かせ方を警察組織全体の問題として真剣に考えなければならない時期に来ていると思います」

「警察官の採用活動が難航しているというニュースをよく目にしますが、問題の本質を捉えられていない対策ばかりが行われているようです。職員の自殺が何回も起きている職場。けん銃を使わないで自殺すれば報道もされず、自殺の事実すら社会の闇に葬られる。なぜ、志願者が激減しているのか。よくよく考えないと、警察を志願する優秀な若者はさらに少なくなるでしょう。そして、日本の治安維持が立ち行かなくなることが心配です。安心して暮らせる社会を作るためにも、この訴訟をきっかけに警察組織が変わることを望みます」
 
 福島県警側は、訴えの棄却を求めている。