スケート人生の中で一生忘れない

 2023年12月、長野での全日本選手権を終えた3人は、長野市内の焼き肉屋で食事をして、国際大会の代表発表を3人で待っていた。

 やがて世界選手権の代表に、宇野昌磨、鍵山、三浦が、四大陸選手権の代表に鍵山、佐藤、山本草太が決まったことが伝えられると、3人は握手を交わしたという。もしかしたら3人の誰かは選考から外れるかもしれない。その場合、気を遣う場面も想像される。でも三浦は「いつも一緒にいるのでそういう関係ではなくて」と言った。

 この数年だけでも、いくつも彼らの関係を示す話がある。

 全日本のフリー後の3人の言葉もそれを示す。

「前から3人で表彰台に乗りたいねという話はずっとしていて、それがかなってほんとうにうれしかったです。表彰台に立ったら、すごいことができたのかなという実感が湧いてきて、(涙が)込み上げてきました」(佐藤)

「この2人がいなかったら、自分はここまで来られてないって言って過言ではないくらい2人の存在は大きいです。全日本で初めて表彰台に乗って、個人としてもうれしいですけど、この2人と一緒に乗れるのがさらに特別感を増したというか、スケート人生の中で一生忘れないだろうなという1日です」(三浦)

「駿と佳生はノービスだったりジュニアの頃からずっと試合や練習もしてきてシニアに上がってからはいつか3人でオリンピック行こうね、3人で海外の試合で表彰台に上りたいという話をしてきました。3人が順調に万全の状態でそろうシーズンはあまりなかったですけど、ミラノオリンピックシーズンの全日本選手権で3人で表彰台に上れたというのは自分にとって大きな意味があります」(鍵山)

 どの競技であれ、いやスポーツに限らない、競い合う関係だと、表向きはどうあれ、内心ではどうしてもライバルと意識して関係にもそれが反映されることは珍しくない。下手をすれば足を引っ張り合うことだってある。

 でも3人は競い合いつつ他の2人を刺激とし、自分の成長の糧としてきた。そのベースには友人としての、仲間としての関係があり、称えることにためらいはない。そんな大切な関係を自分たちの成長の糧となるところまで育て、その中で互いに成長してきた。それは彼らの強みでもある。

 全日本選手権を経て、優勝により自動的にオリンピック代表に決まった鍵山に加え、佐藤と三浦が代表に選出された。鍵山の夢は現実となった。だから三浦は「漫画みたいな」と表す。

 大舞台へ向けて、鍵山の父、鍵山正和コーチもエールをおくる。

「三羽ガラスで一緒に行くことになって、モチベーションも高まっていくと思います。順位関係なく、切磋琢磨して励んでもらえればなと思っています」

 互いの存在を力に、そして互いに励まし合いながら歩んできた3人は、4年に一度の大舞台でもその力を武器とするだろう。

『日本のフィギュアスケート史 オリンピックを中心に辿る100年』
著者:松原孝臣
出版社:日本ビジネスプレス(SYNCHRONOUS BOOKS)
定価:1650円(税込)
発売日:2026年1月20日

 冬季オリンピックが開催されるたびに、日本でも花形競技の一つとして存在感を高めてきたフィギュアスケート。日本人が世界のトップで戦うのが当たり前になっている現在、そこに至るまでには、長い年月にわたる、多くの人々の努力があった——。

 日本人がフィギュアスケート競技で初めて出場した1932年レークプラシッド大会から2022年北京大会までを振り返るとともに、選手たちを支えたプロフェッショナルの取材をまとめた電子書籍『日本のフィギュアスケート史 オリンピックを中心に辿る100年』(松原孝臣著/日本ビジネスプレス刊)が2026年1月20日(火)に発売されます。

 プロフェッショナルだからこそ知るスケーターのエピソード満載。さらに、高橋大輔さんの出場した3度のオリンピックについての特別インタビューも掲載されます。

 フィギュアスケートファンはもちろん、興味を持ち始めた方も楽しめる1冊です。