延命措置の拒否は「公益」に反する?

北村:例えば、当協会は今では「公益財団法人」になっていますが、実は一般財団法人から公益財団法人への申請をした際、一度は国から不認定処分を下されました。理由は、「リビング・ウイルの登録管理事業を公益目的事業として認めると、医師を治療中止へ誘引する悪影響を与える可能性ある」というものです。

 要は、リビング・ウイルを国が認めると「公益」に反する可能性がある、という判断がなされたわけです。

 結局、当協会が不認定処分の取消訴訟を行ったところ、東京高裁は「リビング・ウイルの存在により、医師が遺族等からの無用な責任追及を受けることを免れる可能性があり、結果として終末期医療の治療方針の決定場面において、患者の自己決定権が保護される」とし、不認定処分が取り消されました。

 晴れて私たちも公益財団法人に仲間入りできました。

──日本尊厳死協会には約7万人の会員が存在します。1970年代に前身の日本安楽死協会を立ち上げ、多くの会員がいるわけですが、どのような問題意識を持っているのでしょう。

北村:基本的には会員さんは生きるということに非常に前向きな方々ばかりです。自分の人生の最期を考えた時、自分の最期は自分で決めたい、という強い意思を持たれています。

 終活の議論においては人生会議というコンセプトがよく引き合いに出されます。老年期に入り、本人と家族、医療関係者の3者で終末期にどういう治療を受けたいか複数回話し合う、というものです。ですが、これは家族や医師が主導して結論を誘導してしまう恐れがあります。

 一方のリビング・ウイルは、延命措置の拒否について記載するのはあくまで本人の意思です。元気な時に「私は終末期において、延命措置を拒否します」と宣言し、医師も含めた周囲はそれを尊重する、というシンプルな人生観を示すものです。

 言うまでもありませんが、人間は死に向かって生きています。死を考えるということは、生きることを考えることと同義です。本人の人生の意思を尊重できる終末期の医療体制を作っていく必要があります。