(小松大学大学院特任教授:盛永審一郎)
今年9月、フランスの映画監督ゴダール氏がスイスで「支援自死(要請に応じて医師ないし親族または第三者が薬剤を患者に手渡し、患者が自らそれを服用する自死)」したとのニュースが世界を駆け巡った。
この事件を受けてフランスのマクロン大統領は、安楽死容認の是非に関する市民会議を10月に設置、来年3月までに法制化を目指すという。
このようにヨーロッパ各国では安楽死を認める方向に徐々に動いている。積極的安楽死(患者の要請に応じて医師が致死薬を患者に投与する場合)は、オランダ(2002年)、ベルギー(同)、ルクセンブルク(2009年)、スペイン(2021年)、ポルトガル(検討中)、そして支援自死はスイス(1942年)、ドイツ(2015年)、オーストリア(2021年)で認められている。
これらの中で、フランスと同じく安楽死問題で揺れ動いているドイツの現状と、安楽死法成立後20年経過したオランダの状況を報告してみたい。
「もう十分生きた」として安楽死を望む人も
まずはドイツの現状を簡単に紹介しよう。ドイツARDテレビのニュースによると、2021年にドイツで「支援自死」で死亡した人がおよそ350人いたという。後述する2020年の連邦憲法裁判所違憲判決以来、ドイツには3つの自死支援の団体が設立された。「ドイツ人道死協会」「安楽死ドイツ」「ドイツ・ディグニタス」だ。それぞれ自死した人の数は120人、129人、97人だったという。
しかも報道によると、死にたいという願望の理由として、深刻な病気だけでなく、ゴダール監督の死のケースのような、いわゆる「もう十分生きた」ということを理由としての死もあったという。また3つの組織はすべて、不治の病で苦しんでいるパートナーと一緒に死にたいというカップルにも支援を提供したという。