「需要」が高まれば、デジタル技術を使った世論操作のコストも上がる(筆者がChatGPTで生成)
(小林 啓倫:経営コンサルタント)
オンラインでの世論操作を支える「影の経済圏」
現代のプロパガンダ行為、特に大規模な形で一国の世論を操作する行為は、オンライン上で行われることが一般化している。本連載でも何度か取り上げたが、たとえばSNS上で大量のアカウントを取得し、それを自動で投稿する「ボット」化して、一定の主張を山のように投稿するといった具合だ。
以前ならばアカウントが大量にあっても、それを更新するためのマンパワーが必要だったが、今では生成AIの進化により、いくらでも人間らしいコメントを生成・投稿できる。
しかしこうした世論操作の試みには、まだボトルネックが存在している。それは「SMS(ショートメッセージ)認証」の壁だ。
各種オンラインサービスは、アカウントを開設するにあたって、申し込みをしてきたのが実在する人間であることを確認するためにSMS認証を求めることが多い。つまり申込者に携帯電話の番号を入力させ、その番号に認証コード入りのSMSを送り、コードを入力させるわけだ。
ただ、有効な携帯電話番号を新たに開設するためには、その分だけSIMカードが必要になる。そしてSIMカードを大量に準備するには、かなりの手間暇とコストがかかる。
ところが驚くべきことに、このSMS認証に必要な一連の作業を代行する、違法な業者が存在している。彼らは何千枚もの物理SIMや仮想SIMを並べた「SIMファーム」を運営し、顧客に対して「電話番号+認証コード」を販売している。
この仕組みによって、広告ボットや詐欺アカウント、プロパガンダ用アカウントなど、あらゆる偽アカウントを大量に自動生成することが可能になるのである。
またその先にある、大量の偽アカウントを使って行われる多様な世論操作も、既に「ビジネス」としてサービス化されている。
たとえばフォロワー数や再生数、いいね数を水増しして偽のトレンドを演出するサービス、人々の怒りを煽るような投稿や炎上を仕掛けてアルゴリズムを騙すためのボット群、さらには選挙前に各種SNSやメッセージアプリ上で影響工作(選挙や特定の争点をめぐる人々の認識・行動をゆがめるオンライン上の介入行為)を手がける政治的キャンペーンなどだ。
これらは特定の商品やセレブ、政治家、思想などへの人々の関心を操作するために利用される。
つい最近、英ケンブリッジ大学の研究チームが、こうした「SMS認証代行サービス」とそれを利用する商業的・政治的操作キャンペーン全体が一体となって動いている影の経済圏を「オンライン操作経済(online manipulation economy)」と名付け、そのコスト構造と規模を可視化した研究成果を発表した。
そしてこのオンライン操作経済を理解することが、「偽情報ビジネスのビジネスモデルを解体する第一歩だ」と主張している。どういうことか、具体的に説明していこう。