乱開発を防ぐために必要な法整備とは
山口:もちろんです。いかなる事業も国民の命や暮らしを脅かすことがあってはなりません。安全だというのであれば、安全性を証明する義務は事業者側にある訳ですから。
乱開発を招きかねない法律や制度の抜け穴を封じるために必要なことを2つ提案したいと思います。
1つは太陽光発電に関する市町村条例をつくること。具体的には「太陽光発電事業の開始には、首長の同意を必要とする」といった一文です。そこで注意すべきことは、「同意する」または「同意しない」場合の要件を条例や規則等で定めておくことです。
条例に罰則を付けなければ、実効性が担保できないのではと疑問をお持ちになられる方がいましたが、逆に罰則がない方が良いと私は思います。その理由は、FIT法で売電の許可に際して「関係法令を遵守すること」を定めているからです。
関係法令には自治体条例も含まれます。つまり、市町村の条例で首長の同意を得なければならないと規定していれば、首長の同意を得ずに事業を進めようとした場合、経産省は「条例の規定に反している」とし、売電を認可しません。そうなれば、事業者は万事休すです。
2つ目に、現場の実態に即していない森林法の「林地開発許可の審査基準」の改正です。ポイントは農林水産省所管の森林法林地開発許可の許可要件と、国土交通省所管の砂防三法との整合性をしっかり取ることです。
細かい話になりますが、林地開発許可は森林法第10条の2で規定されています。許可の要件は「土砂災害のおそれがないこと」「水害のおそれがないこと」「水源の保全に支障がないこと」「環境悪化のおそれがないこと」の4つです。
その中で、「土砂災害のおそれがないこと」という要件が、砂防法との整合性が取れていません。砂防法では、土砂崩れなどの土砂災害を防止するために砂防設備が必要なエリアを「砂防指定地」に指定していますが、森林法ではそのエリア内でも林地開発許可を出せてしまいます。
これは法律間の明らかな矛盾です。人命にかかわる問題であるにもかかわらず、長年にわたり見落とされてきました。森林法は人命より開発を優先する法律なのかと疑いたくなります。
現状は、森林法に砂防法の関係条文を準用する規定がないことから、林地開発許可の審査に「砂防指定地等」の情報を使えません。逆に準用したら、その審査手続きは違法なものとして事業者から訴えられるリスクがあります。
森林法に砂防法等の関係条文を準用できるよう、現場の事情に即した法改正をするべきです。
最後に、事業者と向き合う際の心構えをお伝えしたいと思います。悪質な事業者は反対運動のリーダー格を狙って「嫌がらせ」「脅迫」を行う場合があります。スラップ訴訟(勝ち目がなくても経済・精神的ダメージを与えるために起こされる訴訟)や刑事告訴にまでエスカレートすることもあるほどです。
彼らの狙いは反対運動を萎縮させ、やめさせることにあります。私自身、事業者からさまざまな精神的プレッシャーを何度も受けたので、全国で反対運動に関わっている方々の心労はよく分かります。
私からのアドバイスとしては、1人で悩まないことです。誰かに相談しましょう、そして早めに警察に相談しましょう。必要以上に怖れ、萎縮してしまうと、悪質事業者の思うツボです。
そして、事業者との会話(電話含め)は、全て録音し仲間同士で共有しておきましょう。録音や写真などは有力な証拠にもなる可能性があります。証拠を残し、早め早めに警察に情報を提供し、相談しておくことが大切です。警察には住民の命や暮らしを守る使命と責任があります。悪質事業者から市民を守るために警察があるわけですから、遠慮せずに相談に行きましょう。




