中止の決定打になった「重大な問題」とは

山口:それらの主張自体は私も共感しますが、メガソーラー事業は①FIT認定、②関係法令の許可(林地開発許可など)、③環境アセスメントの実施、という手順を適切に踏めば、開発のための工事に着手することができます。

 逆に言えば、この一連の手続きが適法かつ適切に行われていなければ、当然、工事に着手できないわけです。その理由は、FIT法が「関係法令の遵守」を義務付けており、関係法令の一つでも違反していれば経産省の認可を受けられず売電ができなくなるからです。

 一方で、巨額の資金が動いている事業ですから、住民側の感情論だけで反対しても中止に追い込むことは難しいでしょう。 

 住民側はまず、FIT法や森林法などの関係法令を徹底的に調べることが大事だと思います。同時に、県や町に対して情報開示請求を行い、許可認可申請書を入手するなどし、事業計画の全貌を正確に把握することが大切です。

 次に、申請書類と法律を照らし合わせ「審査の手続きに法的不備はなかったのか」「その不備は取り消しに値するほど重大なものか」という価値判断も冷静に行う必要があります。

 これには、行政、土木、電気、法律の専門家のサポートを受けられたら良いのですが、現実的には難しいと思います。私たちの場合、幸運なことに各分野の一流の専門家が大勢いたおかげで有形無形のサポートを頂けたからこそと感謝しているところです。

 その上で、函南メガソーラー計画がストップした(トーエネックが撤退した)理由は大きく3つあると考えています。「林地開発許可申請手続きに、極めて重大な問題があったこと」、「静岡県議会が林地開発許可の取り消しを求める請願を採決し、川勝知事(当時)に林地開発許可の取り消しを求めたこと」、「函南メガソーラー問題が全国的に周知されたこと」です。

──1つ目の「重大な問題」とは何なのでしょうか。

山口:林地開発許可の審査基準では「事業者と河川管理者による河川協議を行うこと」が求められています。河川協議は開発による水害や土砂災害を防ぐことを目的に行われます。

 ところが、「函南メガソーラー計画」では事業者と河川管理者(函南町・静岡県)の河川協議が、適切に行われていなかったのです。実態としては「窓口相談」に近い形であったことを、県担当責任者や町の担当責任者から確認しました。

 そもそも山間部のメガソーラーは山を切り崩すわけですから、河川や土地の形状が変化してしまいます。工事をする際、将来的に洪水が起きないようにするために、河川の管理者と事業者が事前に協議をし、洪水が起きやすい河川の狭窄部(きょうさくぶ:川幅が最も狭い部分)と、その流下能力(川が流すことができる水量のこと)を特定します。

 特定された流下能力の値が、雨水を貯蔵する調整池(洪水被害を防止するために流量を調整する設備)の容量や構造計算の基礎となります。つまり、河川協議は洪水を防ぐための防災設備を建設する上で、重要な事前協議であるということです。

静岡県函南町(撮影:湯浅大輝)

 実際に、(林地開発許可の根拠法である)森林法を所管する林野庁の責任者は、河川協議は「調整池の容量計算の前提となるもので、極めて重要な協議である」「その河川協議が適法に行われていなければ、当然、許可の取消しに値する瑕疵である」と所官庁としての見解を示しています*1

*1:編集部の取材に対し林野庁の担当者は「河川協議は林地開発許可の審査における重要な事前協議だ」と答えた。「河川協議が適切な形で行われていなければ林地開発許可の取り消しに値するか」という質問に対しては「あくまで一般論だが、違法な行為があれば国からの指導が入る可能性もある。個別のケースについては、『開発行為の許可基準等の運用について』を河川管理者と事業者に参照されたい」とした。

 私たちは、函南町で計画している事業は「事業者とは河川狭窄部を特定する協議はしていない」「河川狭窄部の流下能力の値も特定されていない」ことを立証できました。

 他の都道府県の林地開発許可の審査手続きを検証すると、河川協議において、事業者と県担当部署は入念な調査をし、流水規模や流下能力などを吟味した上で、数百ページの書類でまとめられていたことを確認しています。

 ところが函南町の協議簿は僅か「6ページ」です。しかも、他県では必須とされている事業者と首長が署名捺印した文書が、事業者が県に提出した申請書類にはありませんでした。函南町では事業者と河川協議をしていないのですから、それも当然でしょう。

 河川協議が未了であることを立証する証拠として、函南町長から町長印を押した公文書で「当該事業に関し、町は事業者と河川協議は行っていない」旨の回答を頂いていることも付言しておきます*2、3

*2:編集部の取材に対し、静岡県函南町は「事業者との河川協議をしていなかった」と回答した。また、河川協議における「(町管理河川の)河川狭窄部の特定」「河川狭窄部の流下能力の特定」も同様にしていなかったと回答した。

*3:静岡県経済産業部森林・林業局森林保全課は「静岡県管理河川の柿沢川の河川狭窄部の特定」ならびに「河川狭窄部の流下能力の特定」をしていなかった、と回答した。また(県管理河川の)河川協議を行っていたのかという質問に対しては「2018年2月、県管理河川の柿沢川について、事業者と管理者の沼津土木事務所が函南町管理河川の協議結果をもとに協議し『函南町管理河川の狭窄部の流下能力に対応した許容放流量まで流量を絞るので、県管理河川については今以上に流量が増えるわけではなく問題ない』との回答を得た。静岡県は回答をもとに、河川協議が行われていると判断した」と回答した。

──そもそも、適切に河川協議が行われなかった理由はどういうところにあるのでしょう。